2016 Fiscal Year Annual Research Report
次世代シーケンサーを用いた倍数性シダ類複合体の進化史解明
Project/Area Number |
16F16391
|
Research Institution | National Museum of Nature and Science, Tokyo |
Principal Investigator |
海老原 淳 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 研究主幹 (20435738)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
NITTA JOEL 独立行政法人国立科学博物館, 植物研究部, 外国人特別研究員
|
Project Period (FY) |
2016-11-07 – 2019-03-31
|
Keywords | 高次倍数体 / 系統樹 / 次世代シーケンサー / 雑種 / シーケンスキャプチャー / シダ植物 / トランスクリプトーム / ハシゴシダ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、高次倍数性を含むシダ植物の近縁種群の進化的な歴史を明らかにすることである。シダ植物には高次倍数体が非常に多いにもかかわらず、高次倍数化がシダ植物の進化的多様性にどう影響しているのかが明らかになっておらず、大きな課題が残っている状態である。本研究の材料は日本と中国に分布している2倍体から6倍体まであるハシゴシダ近縁種群である。本種群は日本には雑種が多いことに対して2倍体が少なく、雑種の親となる2倍体の種が中国に生育している可能性がある。 従来のDNA解析法では、ハシゴシダ近縁種群の系統的関係を十分に解明することが困難であるため、新たなDNA解析技術(次世代シーケンサー)を用いることによって解決できると考えている。新たなDNA解析技術として、本研究では2種類の方法を用いる予定です。一つは数百から千個以上の遺伝子を解読できるシーケンスキャプチャーという方法である。この方法は古い断片化したDNAにも応用できるので、植物標本庫にある標本をDNA解析の材料として用いることができる。もう一つは10個程度の遺伝子を網羅的に長く読むパックバイオ社の次世代シーケンサーを用いた方法である。この方法は質度の高いDNAが条件であるため、植物標本をDNA材料としては使えないが、DNAを一分子ずつ長く解読できるので、微妙に違うDNAコピーを持つ高次倍数体の解析には有力である。 昨年度は、実際に次世代シーケンサーを用いる前段階の情報処理と準備段階の実験を行った。ハシゴシダに近縁なシダ植物18種類のトランスクリプトーム(1KPプロジェクトonekp.comのデータを使用)を用いて、シーケンスキャプチャーのために必要な約千個の遺伝子の設計をほぼ完成させることができた。パックバイオの次世代シーケンサーに使う遺伝子の設計については、当初の目標の10個の内、5個を決定することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
先行研究で用いられた染色体観察済みの日本国内のサンプルが約100個体手元に準備されている。中国産のサンプルはInstitute of Botany, Chinese Academy of Sciences(PE)より約100標本を借用する予定で、2017年5月中に届く見込みである。 シーケンスキャプチャーに使う遺伝子の設計はほぼ終了したので、2017年5月中にアメリカのMycroArray社に注文し、注文してから4-6週間以内に届く見込みである。 パックバイオ次世代シーケンサーに使うPCRプライマーは目標の10個のうち、5個の設計が終了しており、残りの5個は8月までに設計する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後ハシゴシダ近縁種群の進化的な歴史を明らかにするために重要な課題は、雑種の親になっている2倍体の個体を見つけることである。シダ植物では倍数性に応じて胞子の大きさが変化する傾向があるため、胞子の大きさを測ることによって倍数性の推定が可能と考えられる。したがって、中国産標本の胞子の観察を行うことで、2倍体系統の分布域を解明することを目指す。さらに、2017年7月に中国深センで開催されるInternational Botanical Congressに参加する際に、South China Botanical Garden植物標本庫(IBSC)を訪問し、標本の観察を行う予定である。これらの標本観察から2倍体が見つかった場合、許可を得た上でその2倍体個体のDNA抽出を行い、シーケンスキャプチャーに用いてDNAを解読する。 実験の手順としては、日本国内産の生株からDNAライブラリーを作成し、シーケンスキャプチャーを行う。この株のシーケンスキャプチャーの成功が確認でき次第、標本サンプルの DNAライブラリー作成とシーケンスキャプチャーを行う。生株と標本の両方のシーケンスキャプチャーが完成した後、国立科学博物館にある次世代シーケンサーMiSeqによってDNA解読を行う予定である。 PacBioに用いる遺伝子は残り3-5個のPCRプライマー塩基配列を決定し、計8-10個の遺伝子設計を行う。その後、PacBioのバーコードつきPCRプライマーをファスマック社から注文する。このプライマーで日本国内の生株を材料にして遺伝子を増幅し、PacBioの次世代シーケンサーによるDNA解読をユーロフィンジェノミクス社に注文する。 DNAデータが揃い次第、系統解析を行い、論文にまとめ、国内の日本植物分類学会や国際学会であるアメリカ植物学会で発表する予定である。
|