Research Abstract |
天然由来の生物活性物質の構造や機能には,時として我々の想像をはるかに超える斬新なものが見られる.本研究ではフィールドにおけるダイナミックな生物現象に着目した物質探索を行い画期的な新分子を発見し,物質探索の新機軸を打ち出すことを目指した. 共生,寄生現象に関与する物質探索では,サンゴに被覆する藍藻の一種から強力な細胞毒性を有する新規デプシペプチドを単離した.サンゴとその被覆生物間の生存や情報伝達に関わるケミカルコミュニケーション分子として新機能が期待される.また海洋生物飼育・試験システムを整備し,ヤスリサンゴの産卵と幼生の着生・変態誘引物質について解明を進めた.食物連鎖ダイナミズムに着目した物質探索ではヒラムシの共生渦鞭毛藻を大量培養し,新規超炭素鎖有機分子シンビオジノライドと破骨細胞分化抑制活性物質シンビオイミン,およびその類縁物質の単離・構造決定に成功した.天然毒に関しては,食虫動物ブラリナトガリネズミの顎下腺抽出物より哺乳動物由来の毒として初めてブラリナトキシンおよび類縁物質ブラリナシンを単離した.アミノ酸配列,酵素活性ともに哺乳類に普遍的に含まれる酵素の一種カリクレインに近く,毒性の作用機序に関心が持たれる.カモノハシ毒についても豪州の研究者,動物園との綿密な連絡を取り,今秋の採集の目処を立てた.狩りバチ由来の麻痺性分子については毒嚢に含まれる新規酵素を同定し,リコンビナント実験による組換えタンパク質の調製と麻痺活性試験を進めた. さらに,代表的な新物質6種について詳細な薬理活性評価試験を実施した.シンビオイミンにはIL-5生産抑制活性およびシクロオキシゲナーゼ(COX)-2選択的阻害活性が,またシンビオジノライドにはCOX-1阻害活性が見られた.抗炎症剤の新規リード化合物として期待される.また共生微細藻類の一種の抽出物に,強力な抗菌・抗カビ活性を見いだした.
|