2016 Fiscal Year Annual Research Report
埼玉県における自由民権運動の実証的研究-演説会の広がりを中心に-
Project/Area Number |
16H00022
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Research Institution | 埼玉県立文書館 |
Principal Investigator |
佐藤 美弥 埼玉県立文書館, 学芸員
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Project Period (FY) |
2016
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Keywords | 自由民権運動 / 演説会 / 地域史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、現在の埼玉県域(以下本県)を中心とした地域で展開した自由民権運動、とりわけその初期における民権結社の結成と演説会の広がりの過程を、他地域との比較の視点を加えて実証的に明らかにすることである。この目的の背景には、従来本県を対象とした研究においては、秩父事件に関心が集中し、名望家の運動に関する研究が進んでいなかったこと、他地域との関係が十分明らかにされていないことといった状況がある。 そこで本研究では、本県については埼玉県立文書館などで、他地域については、国会開設運動で本県同様に県会議員が活躍した岡山県、埼玉県に地理的に近い神奈川県、千葉県、群馬県、栃木県など関東諸県の図書館やアーカイブズで調査を実施し、民権結社や演説会に関する行政文書・古文書、あわせて各地域の自治体史における自由民権運動関係の記述を収集した。これらの分析を通し、本県の自由民権運動の地域的展開を確認し、他地域との比較の視点から本県における最初期の民権結社及び演説会の萌芽と展開を検討した。 その結果、本県最初の演説会について、従来いわれているように1875(明治8)年に慶應義塾の弁士が行ったのではなく、翌年に県内名望家が行ったものである可能性が見出された。そのうえでなお、本県の演説会の開催は他地域に比し早かった。その背景には名望家による運動の高揚があったと同時に慶應義塾に学んだ本県出身者の影響があった。1877年以降開催された慶應義塾関係者を招いた本県での演説会は本県地域史にとっての意味と同時に、慶應義塾による演説会の外部への展開であった点で、日本近代の演説に関する歴史過程においても意味をもつものだった。 本研究を通して本県の自由民権運動草創期の過程の一端が精緻化された。この研究で得られた成果は、市民向け講演などで活用したほか、今後さらに研究を進め、学術誌などで積極的に発表していく。
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