2016 Fiscal Year Annual Research Report
Interdisciplinary Reconsideration of Collective Memories after the Mnemological Turn
Project/Area Number |
16H01909
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
岩崎 稔 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10201948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 昭夫 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20203284)
篠原 琢 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20251564)
長 志珠絵 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (30271399)
金井 光太朗 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (40143523)
石井 弓 東京大学, 東洋文化研究所, 特別研究員 (50466819)
成田 龍一 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (60189214)
板垣 竜太 同志社大学, 社会学部, 教授 (60361549)
小田原 琳 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (70466910)
土田 環 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (70573658)
米谷 匡史 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80251312)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 言語論的転回 / 集合的記憶 / 歴史叙述 / 戦後文化 / ホロコースト / 歴史家論争 / メタヒストリー / メモリースタディーズ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、研究グループを「集合的記憶論の学際的基盤」研究会として拡充し、研究体制の整備を図った。歴史叙述理論に関する文献や個々の集合的記憶に関する事例研究資料を整理し、エッセンスを抄訳して各班の共有財とした。とくに『メタヒストリー』などの歴史叙述理論や、記憶の真正性についての論争に関して、その多様性と奥行きを明らかにした。定例的な基盤研究会(個別課題については7月10日、7月23日、7月30日、9月1日、11月11日、11月26日、12月3日、12月6日、3月25日に開催ないしは他の科研費プロジェクトとともに合同開催した)に加えて、6月2日から4日にかけてカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校においてワークショップを開催し、そこに代表として派遣した研究分担者が、環太平洋の事例に即して歴史叙述と記憶に関する共同討議を行った。また10月21日から22日にかけてニューヨークのコロンビア大学において、同じように近年、集合的記憶とグローバルヒストリーという主題に取り組んでいるキャロル・グラック教授とともに、表象文化を共通素材とする「歴史と記憶」と題したワークショップを行った。そこでは20世紀日本とドイツの歴史認識問題を比較したいくつかの報告が行われたが、そこにフランスにおけるビシー政権期の戦争責任やホロコースト責任を研究してきた著名なアンリ・ルッソ教授も参加し、非常に多面的な共同討議が実現したことは意義深かった。 他方、仮説提示のためのワークショップは、歴史叙述と記憶を「記憶論的転回以後」という段階規定で考察する場合の基礎概念を提示するため、予算を繰り越し、平成29年度の10月7日に「『メタヒストリー』の射程で考える歴史叙述と記憶の問題系」と題するシンポジウムとして実現した。この時点までにH・ホワイト『メタヒストリー』を翻訳し公刊して、議論の共通のプラットホームを確保できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
総じて、研究活動自体は順調に進捗している。ただし、初年度において開催を予定していた仮説の提示のワークショップは、来年度に繰り越すことにした。これは、カリフォルニア大学で開催したワークショップも、コロンビア大学で開催したワークショップも、あくまで個別の素材をめぐるモノグラフの集積といった性格のものになったため、それとは性格を異にする会議との並行開催は、焦点がはっきりしなくなると判断したからである。あわせて、実際に報告のために来日を依頼する予定であった研究者の個人的なスケジュールにも変更があり、初年度で当初予定のままの日程で開催するには適さない事情が生まれた。そこで、12月26日から28日の三日間、歴史叙述理論に関する合宿は行ったものの、作業仮説を提示するワークショップそのものは翌年度に繰り越すことにした。予算上もこの繰り越し申請は認められた。しかし、この措置自体は研究の停滞を示すのではなく、もっぱら外在的で偶然的な要因のための延期であり、さらにまた個別の事例報告の方が予想以上に豊かなものになったことを考慮した積極的な判断であった。 なお、この繰り越した課題は、平成29年の10月7日に「『メタヒストリー』の射程で考える歴史叙述と記憶の問題系」と題する国際シンポジウムとして実施することができた。アメリカからは、最終的にメタヒストリーと歴史叙述理論に関して研究業績のあるカリフォルニア州立大学ステフィン・タナカ教授、韓国西江大学林志弦教授、北海道大学長谷川貴彦教授、それに岡本充弘東洋大学名誉教授、東京外国語大学上村忠男名誉教授といった特筆すべき報告者を招いて討議することができた。その成果は、一般メディアにも照会されることになった。この会議のための繰り越し予算も、適正に使用することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
第二期に向けて、繰り越しされた課題は、平成29年10月7日の国際シンポジウム「『メタヒストリー』の射程で考える歴史叙述と記憶の問題系」として遂行された。あらためて当初の計画どおり、集合的記憶の動態について、また虚偽の記憶問題について、個別と普遍とを往還するような形での作業仮説を、事業分担者のあいだで確認することができた。また、とくに本事業の開始以後、歴史的実在についての記述する歴史学という自己理解をめぐって、そもそも過去を描くという行為自体が現在時における実用的、実践的な目的において存在している遂行的行為であるという論点が集中的に論じられてきたが、近年のいわゆるポストトゥルース現象のために、集合的記憶の動態としての過去をめぐる言説の真正性がとくに、研究主題として焦点化してきている。これらについて、今後、明示的なテーゼを示すことができるように、共同研究を方向づけていく予定である。
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Research Products
(25 results)