2018 Fiscal Year Annual Research Report
Interdisciplinary Reconsideration of Collective Memories after the Mnemological Turn
Project/Area Number |
16H01909
|
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
岩崎 稔 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (10201948)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今井 昭夫 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20203284)
篠原 琢 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (20251564)
長 志珠絵 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (30271399)
金井 光太朗 東京外国語大学, その他部局等, 名誉教授 (40143523)
石井 弓 東京大学, 大学院情報学環・学際情報学府, 特別研究員 (50466819)
成田 龍一 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (60189214)
板垣 竜太 同志社大学, 社会学部, 教授 (60361549)
小田原 琳 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (70466910)
土田 環 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (70573658)
米谷 匡史 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80251312)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | 集合的記憶 / 想起の文化 / 新自由主義 / メモリーレジーム / メタヒストリー / トラウマ / 国民的記憶 / 左派メランコリー |
Outline of Annual Research Achievements |
集合的記憶に関する研究は、モーリス・アルヴァックスの概念設定に基づき、ドイツのヤン・アスマンやアライダ・アスマンの概念装置などに影響されながら展開されてきている。本研究は、こうしたメモリー・スタディーズの一般的な高度化と、とくにいわゆる記憶論的転回以後、歴史叙述や歴史認識に関する論争のなかで歴史像の二分化や二極化として表れている問題について取り組んできた。2018年度においては、ハッカソンをまねたスタイルでの長時間におよぶ自由討議を通じて、①国民国家の記憶に関する事例研究、②戦後記憶の再検討、③典型的な形で争点化している記憶の動態の理論化に取り組んできた。 2018年6月10日と11日にはワシントン大学において、同様の問題意識を共有するテッド・マック教授とともに、集中討議をTP Workshopとして実現した。8月20日から24日にかけては、ライデン大学のコンラート・ローレンツセンターでマヤ・ヴォトピベツ教授と連携して「言葉と暴力」という視角からの「68年の記憶」に関する連続ワークショップを実施した。これにはコーネル大学のサカイ・ナオキ教授、日本女子大学の成田龍一教授、日文研の坪井秀人教授らも参加し、論点を一気に集約することができた。1968年という時期の記憶の複雑な文脈を多面的に解きほぐせただけでなく、その成果を具体的な論集として集約し英語圏で出版する構想にも着手できた。 さらに、戦後東アジアの記憶レジームに関して、移行期正義と和解の問題を視野に収めた会議が9月に早稲田大学で開催され、そこで本事業の代表である岩崎稔が、戦後左派の記憶の構造的欠落と新自由主義について概括的な問題提起を行った。加えて12月9日-10日にはパリにあるコロンビア大学グローバル・スタディーズ・センターで、コロンビア大学のキャロル・グラック教授とやはり1968の記憶についてワークショップを開催できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を通じて、個々の集合的記憶をめぐる抗争ときしみ、対立と和解に関する研究は、それぞれの研究班の活動として具体的に進捗している。たとえば、各国民国家のケース・スタディは篠原琢教授、小田原琳准教授の貢献で中央ヨーロッパ大学の研究者集団との連携が進展し、広くEU全域に視野が広がって、ハンガリー、ポーランドなどの東欧や南欧のボーダーランド地域の研究が着実に進展した。また東アジアのケースについても、「メモリーレジーム」という視点を通じて、いわゆる「記憶論的転回以後」の四半世紀余の論争過程を整理したり、戦後記憶の諸課題を網羅的に再検討する作業に、大きな進展を見ていると考えられる。これらには、「グローバルヒストリーのなかの1968の記憶」という設定によるワークショップをオランダのライデン大学でも、パリのコロンビア大学グローバル・スタディ―ズ・センターでも反復して開催できたことが役立ったし、その場では、同時に東アジアの戦後史と集合的記憶の絡みあいが、ヨーロッパ各国やアメリカの事例との比較検討によって解読されるという副次効果もあった。 集合的記憶論の個別研究の成果をふまえた記憶理論の構築については、研究代表が中心となって連続ワークショップをペースメーカーとして検討を進めているが、そのなかで、「アイデンティティ確証的記憶」と「脱中心化的記憶」の二元構造や、記憶における和解の問題について、検討が続いている。それは早稲田大学で開催された移行期正義や和解の問題に重点をおいたワークショップで、アイデンティティポリティクスなどとまじりあって生まれる記憶の狭隘化や硬直化を批判的に検討した作業との協働にも負っている。 各研究班の取組を概観するかぎり、当初の計画の実行とともに、着手時点では不分明であった論点がいくつも明示化されてきており、本事業の研究計画は、おおむね順調に進展していると考えることができる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本事業はあと2年を残しているが、当初計画に基づき、2019年度はよりいっそう記憶理論のメタレベルからの検討の方に重点を移していくことになる。ひきつづき個別研究での事例の掘り下げは重視しつつも、それと一般理論の構築作業が適切に連関するようなあり方をめざしたい。今後の推進方策についてとくに骨格的な方針にあたる部分での変更はないが、そのつどの研究活動の蓄積のなかで新たに見いだされた論点については、重視していくつもりである。たとえば、2018年3月に沖縄琉球大学の新城郁夫教授と呉世宗教授を招いて行った沖縄現代史をめぐる研究班の集中討議では、「国民的記憶論」批判の観点からいわゆる「基地本土引き受け論」の批判的吟味が行われたが、新城教授の問題提起は討議参加者に強い印象を残した。それは、東アジアの戦後記憶に関する新しい理解を模索することにも大いに役立つと思われる。これらの視座は、共同研究の新しい切り口のひとつとして、引き続き深めていくことができると理解している。 また、もうひとつの進展と言える要素としては、3.11以後の震災や原発人災をめぐる文化表現のなかに出来事の記憶がどのように着床したり、重ね書きされたりしているのかという観点である。これは本事業の着手時点では予想していなかった論点であり、とくにアメリカ地域の研究者との対話のなかで自覚されるようになった視点であった。この論点については、現時点で2019年度中に開催を計画している8つのワークショップのうちの2つにおいて、課題として取り上げることにしている。具体的には、「震災後文学」の研究に取り組んできた津田塾大学の木村朗子教授や法政大学の岩川ありさ講師の手助けを得ながら、集中的に検討する機会を確保する予定である。つまり、これらの論点をたんに追加の個別事例にとどめず、集合的記憶論の動態を理解するための重要な手がかりとしていくつもりである。
|
Remarks |
2014年から毎年6月の時期に、UCLAを基幹校として日本研究の最前線の課題をめぐって進められている共同研究であり、2019年度も継続的に実施されている。かならず本科研費事業の一環としての位置付けを与えつつ、日米間の参加者のあいだで、太平洋を挟んだ共同事業として推進した。上のURLはUCLAテラサキセンターがバックアップしていた2015年と2016年のものだが、事業は今年度も含めて定例化している。
|
Research Products
(41 results)