2018 Fiscal Year Annual Research Report
Ethnic Formation Process in Border Area: A case of the Ainu Ethnicity
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16H01954
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
加藤 博文 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 教授 (60333580)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 孝雄 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (20269640)
米田 穣 東京大学, 総合研究博物館, 教授 (30280712)
安達 登 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (60282125)
石田 肇 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70145225)
蓑島 栄紀 北海道大学, アイヌ・先住民研究センター, 准教授 (70337103)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | アイヌ民族 / 文化的統合 / 移住 / オホーツク文化 / 擦文文化 / アワビ貝集積遺構 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に引き続き、礼文島に所在する浜中2遺跡の調査を継続し、アイヌ民族文化形成過程を考古学的に検証できる資料の蓄積に取り組んだ。特に調査区南側においては、遺跡上層部の堆積層が撹乱されずに良好に残されていることが判明した。層位的にオホーツク文化終末期の元地式土器、擦文式土器が出土している。その上層では、アワビ貝集積遺構が確認された。このアワビ貝集積遺構からは、人為的に変形されたマキリやマレック、船釘など鉄製品が出土している。年代的には、近世江戸期から明治初頭に遡ることが出土資料から推定される。集積されたアワビ貝には、金属製のヤスで刺突した際に開けられた断面四角形の穴が確認できる。アワビ貝の集積遺構は、層位差があることが確認でき、アワビ貝の採集がかなりの幅の持って連続的に行われたことが確認できた。 2017年度に出土したオホーツク文化期初頭に属する墓から出土した女性遺体については、形質人類学的な初見が得られ、古代DNA解析も進められている。今後は、DNAの解析を進め、集団系統論からもアイヌ民族の形成過程や、オホーツク文化集団との関係を明らかにする資料の蓄積を図る予定である。 民族形成過程に関する理論的考察としては、同時期のヨーロッパにおける集団移住と文化的統合がその後の民族形成に果たした影響について海外の研究者との意見交換を進め、議論を深めた。北海道においても歴史的アイヌ文化に先行するオホーツク文化や擦文文化の成立の背景に集団移住や隣接集団との接触があることが指摘されてきた。本研究では、移住・適応・文化的統合を具体的な事例に即して、理論的検証を進めている。地域集団の動態の背景には、隣接する国家などの政治社会的な動きや、経済交流の影響も大きく、今後検証していく必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
浜中2遺跡の調査では、これまで確認されて来なかったオホーツク文化終末から近世アイヌ文化期への移行過程を層位的に確認できる文化層が検出された。このような層位的な裏付けを持った文化的連続性を検証できる調査環境は極めて稀であり、詳細な分析を加えることで、オホーツク文化の変容とその後のアイヌ文化の成立にオホーツク文化が果たした役割を明らかにすることが可能となる。この意味でも当初の研究計画の想定を超えた成果が得られている。 またこれまで1例しか確認されていないオホーツク文化初期の十和田期の埋葬例の解析が進められ、集団系統的な面からもオホーツク文化集団の期限、これに後続するアイヌ文化集団との関係について貴重な資料が得られることになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究としては、良好な状態で確認されたアイヌ文化期のアワビ貝集積遺構の年代の確定を行うほか、アワビ貝集積遺構に共伴する金属製品の検討を進め、儀礼行為の詳細を明らかにする予定である。アワビ貝の集積は、これまでも日本海沿岸地域において確認されてきているが、送り儀礼と関係する遺構が明確に確認されたものはほとんどない。江戸時代後期の商業的なアワビ貝採集活動に取り込まれつつも、独自の儀礼行為を維持していたアイヌ社会の姿を出土資料を通して明らかにしていく必要があり、新たな研究計画の策定を構想している。 集団系統論的には、オホーツク文化の担い手は、様々な仮説が提示されてきたが、本研究の確認された新資料によって、より詳細な集団形成過程が明らかになる。これらの資料の蓄積によって、アイヌ集団の地域的多様性がより明確となることが期待できる。 アイヌ文化の成立過程は、周辺隣接地域との経済交流による文化変容という視点で解釈されてきた。新たな資料は、それに加えて集団移住や文化的統合による集団意識の形成という新たな仮説を提起することが可能であることを示唆している。民族集団の形成過程に関する新たなモデル提示に向けて更に資料の収集とデータの蓄積をはかっていく予定である。 本研究の主要な調査フィールドである礼文島の浜中2遺跡は、考古学資料のみではなく、人類学資料や古環境データも豊富に内包した貴重な遺跡である。浜中2遺跡の歴史文化遺産としての保存と活用に向けた研究も合わせて進めていく必要があり、これについても準備的な研究に着手しつつある。
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Research Products
(24 results)
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[Journal Article] Vegetation change and human impacts on Rebun Island (Northwest Pacific) over the last 6000 years2018
Author(s)
C. Leipe, S. Muller, K. Hille, H. Kato, F. Kobe, M. Schmidt, K. Seyffert, R. Spendler, M. Wagner, A.Weber, P. Tarasov
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Journal Title
Quaternary Science Reviews
Volume: 193
Pages: 129-144
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Presentation] 2017年礼文島浜中2遺跡出土オホーツク文化期前期十和田式段階の埋葬人骨2018
Author(s)
3.久保大輔, 平澤悠, 米田穣, 森田航, 佐藤丈寛, 蔦谷匠, 澤藤りかい, 木村亮介, 小林光, 石田肇, 加藤博文
Organizer
第72回日本人類学会大会
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