2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H02954
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
倉岡 功 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (60335396)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | DNA修復 / 転写産物 |
Outline of Annual Research Achievements |
DNAは遺伝情報を担う重要な物質であり、生命が正常に営まれるためには安定にDNAを維持しなければならない。しかしDNAは放射線、紫外線、化学物質などの外的要因、および細胞の代謝過程で発生する活性酸素などの内的要因により絶えず損傷を受けている。これらのDNA損傷は、細胞死や突然変異を誘発し、ひいては老化・がん化等の原因になる。 放射線により生じるDNA損傷としてDNA鎖切断がよく知られている。この損傷は複製のみならず転写機構をも阻害し、突然変異および細胞死を導く。最近、この修復のために細胞は転写機構と協力してDNA鎖切断を修復していることが明らかになった。この研究の目的は、転写におけるDNA鎖切断の影響および転写と共役したDNA鎖修復の現象を細胞生物学的に解析し、その修復の分子機構を生化学的に明らかにすることである。 転写と共役した修復には、2つの特徴が存在する。一つは、転写されている領域は転写されていない領域よりも早く修復できるというもの。もう一つは転写されている鋳型鎖側が転写されていない鋳型鎖側よりも早く修復されるというものである。どちらもRNAポリメラーゼの阻害が修復の開始となることが示唆されている。 我々はまず転写されている領域および転写されていない領域における修復を観察することから実験を始め、ゲノム編集技術も用いて転写されている領域および転写されていない領域にそれぞれ特異的に損傷を導入し、その修復スピードを観察した。その結果、おおむね予想された結果が観察された。しかしながら、調べている領域の特異性もあることから、さらなる実験が必要であることが明らかにもなった。加えて詳細な機構を解析するため、ヒト細胞抽出液を用いた生化学的な実験が必要であることが明らかになった。そこで、現在この解析のための転写テンプレートになる改変型のDNA基質を作製し、無細胞系の実験法を構築している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
転写領域と非転写領域におけるDNA2本鎖切断の修復および転写されている領域と転写されていない領域におけるDNA1本鎖切断の修復を観察する系を、ヒト細胞において確立し、その修復の正確性を検証することを目的に研究を開始した。 我々はまずゲノム編集技術も用いて転写されている領域および転写されていない領域にそれぞれ特異的にDNA1本鎖切断を導入し、その修復スピードを観察した。その結果、転写機構と修復機構を観察することはおおむね可能となり、転写されている領域が転写されていない領域よりも早く修復されるというおおむね予想された結果も示唆された。 しかしながら、同時に問題点も明らかになった。つまり修復と転写の2つが完全に共役関係にあるかはまだ定かではないということがわかった。というのも、起きている事象が同じ細胞で生じているかが特定できないからである。すべての細胞において転写が観察され、また同時に修復が観察されるということは観察が困難であった。加えて、ゲノム編集によって切断される効率も必ずしも同じ効率で切断されているとは言い難い状況が生まれた。現在の結果では、ゲノム編集による偏りが存在していた場合でも同じような現象は観察されると思われるからである。 現在、これらの状況においては、無細胞系のシステムを構築することが重要であるという結論に達した。 損傷の量と転写の量と修復の量をコントロールすることで問題を解決したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
転写と修復を観察するために、まず転写が観察できる主要後期プロモーター(Major late promoter :MLP)をもつDNA基質を作成する。そのとき転写鎖側に1本鎖切断および2本鎖切断を導入できるように制限酵素部位を導入、さらに損傷を大きさの異なる2つG-lessカセットで挟み込む。このようにすれば大きさの異なる2つの転写産物を生み出すことになり、転写産物を定量的に取り扱いやすくなる。この基質をプラスミドDNAとして大量に精製し、DNA鎖切断制限酵素で鎖切断を導入する。損傷基質プラスミドはアガロースゲル電気泳動により確認する。切断された基質はアガロースゲル上でその泳動速度が遅くなる事で確認でき、この方法により一分子プラスミドの中に一つの損傷をもつ基質が作成されることになる。また、コントロールとして転写できないDNA基質も同様に作製する。 鎖切断損傷基質、放射活性をもつヌクレオチドおよび転写能を有する核抽出液をインキュベートし、鎖切断損傷部位までの転写産物が生じているかまたはその損傷部位を乗り越えた転写産物が生じているかを変性ウレアゲル電気泳動で解析する。転写が行なわれていることを確認した上で、同じサンプルが修復されているかをアガロースゲル電気泳動で解析する。もし修復されていれば、鎖切断損傷基質は元の2本鎖基質のプラスミドDNAとなり、泳動速度が速くなるはずである。もし転写されているものがされていないものよりも速く修復されていれば、転写鎖および非転写鎖における比較も行う。そこで転写鎖が非転写鎖より修復されていれば、転写と共役した1本鎖切断DNA修復が観察されたことになると考えられる。 加えて、放射活性をもたないヌクレオチドにおいても、同じ解析を行い、DNA上に変異が生じていないかをシークエンスにより解析する。
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