2016 Fiscal Year Annual Research Report
味と香りの複合刺激が食べ物の美味しさに及ぼす効果の分子機構
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16H03031
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
前橋 健二 東京農業大学, 応用生物科学部, 教授 (20328545)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保田 紀久枝 東京農業大学, その他部局等, 教授 (90008730)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 苦味抑制 / 香気物質 / 味覚受容体 |
Outline of Annual Research Achievements |
甘味受容体機能解析のためにHEK293細胞へヒトT1R2及びT1R3遺伝子を導入し甘味受容体強制発現細胞を作製した。また、苦味受容体機能解析のためHEK293細胞へ各種のヒトT2R遺伝子を導入し苦味受容体強制発現細胞を作製した。これらの味覚受容体発現細胞の味物質への応答特性を調べることで、官能評価によって得られた現象を分子の挙動として捉えることを目指した。 一つ目は、清酒に含まれる特徴的な甘味物質として知られるα-エチルグルコシドの呈味を調べた。官能評価では苦味を伴う甘味を示すことが報告されており、本実験においては甘味受容体強制発現細胞に対してグルコースやスクロース等の甘味物質と同様に応答を示すことが確認された。また、各種苦味受容体に対する応答挙動を調べた結果、いくつかの苦味受容体が応答を示したことから、α-EGが苦味物質であることも確認された。すなわち、α-EGは甘味受容体と苦味受容体の両方を刺激することにより苦味を伴う甘味という特徴的な呈味を示すと考えられた。 二つ目は、緑茶の苦渋味成分エピガロカテキンガレート(EGCg)の苦味に及ぼす香辛料の香気画分の影響を官能評価で調査し、カルダモン香気画分に抑制効果を認めた。そしてその効果の客観的評価法として苦味受容体発現細胞を用いた苦味応答解析を行った結果、カルダモン香気画分が苦味受容体のEGCgに対する応答を抑制したことから、カルダモン香気物質の苦味受容体への作用が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、実験サイクルがスムーズに回る実験系および評価系の構築に取り組んだ。官能評価パネルの選定として、研究室内の学生に事前説明を行い理解と意欲のあるものかつ味覚・嗅覚能力試験で正常な嗅覚味覚が確認された20名を選抜し、味の段階的強度の区別や官能評価法になれるようトレーニングを行った。評価法は、全口腔法で1対2比較法、2点識別法、カテゴリー尺度法とした。 市販のカルダモン、レモングラス等の各種香辛料を常圧水蒸気蒸留し、この蒸留物を香気画分として官能評価および味覚受容体供試試料とした。市販のスパイス類の香気画分の緑茶苦渋味に対する軽減効果についてスクリーニングを行った結果、カルダモンに有意な苦味軽減効果が認められたほか、レモンバームやユーカリにも軽減傾向が認められた。茶エピガロカテキンガレート(EGCg)に応答する苦味受容体T2R14安定発現細胞を用いて、カルダモン香気画分を処置した際の苦味受容体応答を調べた。その結果、カルダモン香気画分を添加することにより苦味受容体のEGCg応答が抑制された。香気画分による苦味軽減効果は、香気成分の苦味受容体への直接的な作用による可能性が示唆された。 味の客観的評価法として味覚受容体の味物質への応答解析をするために、各種苦味受容体安定発現細胞および甘味受容体安定発現細胞の取得を行った。次に培養細胞アッセイ系を用いて清酒特有の甘苦味成分として知られているα-EGの甘味受容体及び苦味受容体への作用を調べた。α-EGはグルコースやマルトース等の糖類と同様に甘味受容体を刺激することが確認された。さらに、α-EGがT2R45やT2R43等複数の苦味受容体にも作用することを見出した。従って、α-EGに特徴的な味質は甘味受容体と苦味受容体の両方を刺激することによって生じる複合味覚であると推定された。
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Strategy for Future Research Activity |
カルダモン香気画分が茶カテキンに対して苦味抑制作用を持つことが官能評価および培養細胞アッセイ系にてわかったため、研究分担者はカルダモンの香気画分に含まれる苦味抑制物質の同定を目指す。研究代表者はカルダモン香気画分またはそれに含まれる活性成分が他の苦味物質に対しても苦味抑制作用を示すか、培養細胞アッセイ系を用いて検討を行う。また、甘味受容体及びうま味受容体の味応答および味応答の相乗作用を定量的に測定することを目指し、取得された甘味受容体安定発現細胞及びうま味受容体安定発現細胞について既知物質を用いて味応答確認試験を行う。その後、官能試験によりうま味増強効果が報告されている物質について、培養細胞アッセイ系により香気物質のうま味受容体への作用を検討する。
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Research Products
(3 results)