2016 Fiscal Year Annual Research Report
暑熱環境下における運動能力低下に関する中枢性作用機序の解明と熱中症予防対策
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16H03241
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
長谷川 博 広島大学, 総合科学研究科, 教授 (70314713)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 大輔 独立行政法人日本スポーツ振興センター国立スポーツ科学センター, スポーツ科学部, 契約研究員 (20735964)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 暑熱環境 / 運動 / 体温 / ドーパミン / カフェイン |
Outline of Annual Research Achievements |
運動時の疲労の発現には多くの要因が複雑かつ相互に関連し,近年は核心温や脳温の上昇も運動の限界に関わる重要な要因として考えられている.すなわち,運動時の高体温は暑熱耐性の制限因子となり,末梢および中枢神経系を介して疲労感を誘発し,持久性運動能力の低下,ひいては熱中症を引き起こす.中枢性の要因として脳内神経伝達物質の増減や脳血流低下などが注目され,中枢性機序の解明は熱中症予防や運動能力の制限因子を探る上で重要である.本研究の目的は,ヒトおよび動物実験の両方から神経生理的手法,体温・循環調節系手法を用いて,暑熱環境下における持久性運動能力の低下の中枢性メカニズムを明らかにし,新たな熱中症予防策を提案することである. 本年度は,高体温が引き起こす運動時の疲労における視床下部内ドーパミンの機能的役割について,ラットの脳内ドーパミンを修飾し,運動能力,体温調節におけるドーパミン作動性神経の機能的役割を検討した.その結果,ドーパミン受容体拮抗薬,アデノシン受容体作動薬の投与により,PO/AHにおけるドーパミンの減少あるいは運動に伴う運動の抑制が観察された.過去の申請者らの実績を含め,暑熱環境下の運動能力に関する神経生化学的要因をある程度具体化することができた. ヒトを用いた実験では,主に国立スポーツ科学センターと共同で,暑熱下の低濃度(3mg/kg)のカフェイン摂取が運動能力及び体温調節機能に及ぼす影響について検討した.その結果,低濃度のカフェイン摂取は,暑熱環境下でも過度な体温上昇を引き起こさずに間欠的運動能力や認知機能を向上させることを観察した.これらは,暑熱環境下における持久性運動能力の低下の中枢性メカニズムの解明に大きく前進する結果であり,熱中症予防につながる重要なデータとなった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,ヒトおよび動物実験の両方から神経生理的手法,体温・循環調節系手法を用いて,暑熱環境下における持久性運動能力の低下の中枢性メカニズムを明らかにし,新たな熱中症予防策を提案することを目的としている.動物実験では,適切な運動負荷や,運動時の体温,酸素摂取量,脳内神経伝達物質の測定が正確に評価できるよう,先ずは既存のトレッドミルチャンバーを改良し,実験環境を整備した.過去の実績を含め,暑熱下の運動能力低下に関する神経生化学的要因をある程度具体化することができ,これらは高く評価できる. ヒトを用いた実験では,暑熱環境下におけるカフェイン摂取の効果と安全性の検討は計画通り実施することができ,新たな成果を得ることができた.また,高体温が引き起こす運動能力低下および認知機能低下における脳循環調節の関与に関しては,すでに既存のエルゴメータを使用してリカンベント運動を行うことのできる装置を特別に作成するなど,次の課題に向けての準備も行うことができた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,これまでに確立してきた独創性のある実験手法を用いて,ヒトおよび動物実験の両方から同一研究課題について,運動能力,体温・循環調節,脳内神経機構,認知機能の観点から引き続き検討していく. 先ずは,これまでに得られた研究成果を国内及び国際学会で発表するとともに,研究成果の主な内容をいくつかの国際誌に投稿していく. また,平成29年度の実験は,暑熱下運動時の体温上昇と脳活動低下の関係を明らかにすることが大きな目的となる.そのため,動物実験では局所脳血流変化,ヒトの実験では運動時の脳循環調節を測定評価できる実験環境を整備する必要がある.そして暑熱下においても運動能力や脳活動を維持できる方法を確立するための暑さ対策研究の準備も同時に実施していく.
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