2017 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナム・中国二国間関係の下で揺れ動くベトナム華人に関する歴史的研究
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16H03310
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 正子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (20327993)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下條 尚志 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 助教 (50762267)
小田 なら 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任研究員 (70782655)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ベトナム華人 / 明郷 / 中越戦争 / 華僑・華人出国 / 客家 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度はハノイ、フエ、メコンデルタで華人と明郷についての調査を行った。まずハノイでは旧市街の元華人街を中心にインタビューを実施、短期間ではあったがしつこく何度も通ったかいがあり、水面下に残る華人ネットワークをたどって、1978年の中越関係悪化時に中国に戻らず、ベトナムに残っている人たちの証言を得ることができた。その結果、ベトナム人男性と結婚していた華人女性はベトナムに残ることができたが、それ以外の人々はほとんど残ることができず、ほぼ中国へ渡っていることがわかった。中部・南部からも難民となってベトナムから脱出した中国系住民は多いが、ハノイほど徹底して追い出されてはおらず、政治都市ハノイの厳格さと、北部から華人人口の大部分が出国したとされていた通説を確認することにもなった。さらに以前の教育状況や今は政府に接収されてしまっている会館の活動、華僑・華人大量出国の前後の状況など歴史を具体的に明らかにできた。ハノイに残った華人についての調査はこれまでないので貴重な資料を収集できたと言える。通常外部者は入れない、接収され小学校にされている元広東会館の建物内部も見ることができ幸運にも恵まれた。 12月にはハノイ大のチン教授と分担者とともに、フエでインタビュー調査、フエ大学で華人に詳しい研究者と交流し文献資料収集を行った。フエは観光客で賑わうホイアンと同様、華人会館などの施設が揃っているにも関わらず、全く観光開発されていない。ホイアンやホーチミン市に比べ華人社会が衰退しつつあり、観光開発に関わるような人材も少ないことがわかった。行政側もフエには王宮関係の施設がたくさんあるために、ベトナム的でない華人施設に注目する必要がないと捉えているようだ。また阮朝に高官として仕えていた明郷の子孫が残っているのも古都の特徴で、抽象的にしか言われていない明郷のかつての活躍ぶりを具体的に明らかにできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
政治の中心地ハノイで調査の難しさに直面し、現代ベトナムにおいて華人研究がタブーであることを改めて思い知らされた。「1978年当時の大変だった時期のことはやはり話したくない」と言って断られ続けたのは、ハノイの華人が1978-79年の中越関係悪化時期にベトナムのなかで最も困難な体験をしたことの反映だが、加えて、日本人として日中戦争の後遺症の深刻さにも直面せざるを得なかった。つまり、約束相手が日本人と知るやいなや「日本人は嫌いだから会いたくない」としてキャンセルされることが重なり、インタビュー対象者にたどりつくこと自体が大変だった。それでもようやく数人が、締め付けが他都市よりきついベトナム公安の目を気にしながらも、78-79年を境に激変した人生について語ってくれた。 メコンデルタでは、北部で調査してきた研究代表者は、ベトナム語の南部なまりが聞き取れず当初手こずったが、研究分担者がこの地域で長く研究してきた専門家であることから、南部方言とクメール語の通訳をしてくれ大変に助かった。フエの調査においては、もう一人の研究分担者がフエでの豊富な調査経験を活かして、筆者にとっては多少聞き取りづらいフエ弁を聞き取ってくれ、こちらも調査をスムーズに進めることができた。フエでは、ハノイやホーチミン市では手に入らない研究雑誌や書籍を独自に出版しており、直接それらを収集できたことも研究の進捗に役立った。現地調査については概ね予定通りの進捗である。 2017年2月に東南アジア学会関西例会において開催した、客家系華人ガイについてのワークショップが極めて盛況だったため、それをもとに、雑誌『アジア・アフリカ地域研究』2017年第17-2号に、特集「ベトナムのガイ人-客家系マイノリティの歴史・宗教・エスニシティ-」を組み、チン教授を含め論文を執筆した。これにより、本プロジェクトの中間報告ができたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年は7月に約10日、9月と12月にそれぞれ一週間のフィールド調査を予定している。7月は、ラオスとの国境に近いディエンビエン省トゥアチュア県のかなり山奥に入った地域にいるサファンと呼ばれる人たちを訪問しインタビュー調査を行う。サファンは客家語に近い言語を話しているという情報もあるがこれまでほとんど調査されたことがない。どのような人々なのか、移住の歴史を含めて明らかにする。9月は、中越国境のクアンニン省ヴァンドン県クアンラン島に居住する客家系の人々を訪問し聞き取りと資料収集を行う。かれらは多数派の「キン」とされているが、自身は客家と名乗り漁師をしている。それ以上の情報はないので、「キン」とされている理由を含めどのような歴史を辿ってきた人々なのか明らかにしたい。これら客家系の人々の例を通じて、ベトナムと中国の二国間関係にかれらの人生がどのように左右されてきたのか、敵対する「中国」にルーツを持ちながらベトナムで生きることの「しんどさ」について、引き続き明らかにしていきたい。三回目の12月は、昨年時間不足で十分な聞き取りができなかったメコンデルタを再訪し、ハティエンなどのカンボジアとの国境地域の明郷(華人とクメール人の混血の人々)について、引き続き調査する。、華人とクメールの混血がなぜ、どのように進んでいったのか、かれらはベトナムの地元においてどのような存在なのか、また明郷たち自身は、どのようなアイデンティティを持っているのかなどについて明らかにしたい。
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Research Products
(8 results)