2018 Fiscal Year Annual Research Report
ベトナム・中国二国間関係の下で揺れ動くベトナム華人に関する歴史的研究
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16H03310
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
伊藤 正子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授 (20327993)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下條 尚志 静岡県立大学, 国際関係学研究科, 助教 (50762267)
小田 なら 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特任研究員 (70782655)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | ベトナム / 華人 / 明郷 / 土着化 / 中越関係 / 雲南 / 客家 / 福建 |
Outline of Annual Research Achievements |
2018年度は、7月にライチョウ省トゥアチュア県で、サファン人の居住地を訪問、9月には大航海時代にハノイの外港として繁栄していたフンイエン省フォーヒエンの町を訪ね、さらにクアンニン省のクアンラン島で、現在はベトナム人に同化している元客家の人々について、資料収集とインタビュー調査を実施した。また12月にはメコンデルタをまわって華人と明郷について、3月にハノイの旧市街と西湖周辺でベトナム化した中国系の人々について調査した。 まずサファン人は、華人のサブグループとして民族分類表には載っているものの、先行研究がなく、どういう人たちなのか全く不明であったが、かれらが雲南省から100年以上前に移住してきて、現在も母語の雲南語を維持し、モン族優勢の地域で村における地位は低いものの、勉学に熱心で学歴は比較的高く都会へ出て大学へ行っている若者もいることがわかった。一方他地域の中国系集団と同様、1970年代末の中越関係悪化の影響を受けて中国に戻った人も多く、最近はそのネットワークを利用した雲南への出稼ぎも激増している状況であることなどが明らかになった。 フォーヒエンでは、かつての町に残る中国系住民の建てた天后宮などを確認し、漢方薬を現在まで家業としている温家を訪問して一族の歴史の聞き取りを行い、フォーヒエンの華人街がベトナム化していく過程を把握した。 中越国境に近いクアンラン島では漁民である華人(主に客家)がベトナム戦争に動員されて、戦略物資の重要な回路輸送に携わり(海のホーチミンルートの一端を担い)、中越の国家関係に翻弄されながらも、次第にベトナム化されてきている過程が明らかになった。 メコンデルタの調査では、北部のような「エスニシティ」の差異は見えにくく、古くから人が居住する地域では混血があたりまえで、純粋な「〇〇人」は実は存在せず、言語も文化も大きく混淆している状況が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
7月のライチョウ省トゥアチュア県の調査では、出発の2日前にベトナム北部に洪水の被害が出て、山間部である調査地にたどり着けるかどうか危ぶまれ、急遽迂回路を探したり手間をとられたが、当日は水が少しひいて数時間前まで小舟に乗り換えなければ通れなかった地域が車で通行可能になっていたため安堵した。またトゥアチュア県は山間部の交通事情がかなり改善した現在のベトナムにおいても、丸二日がかりでようやくたどりつける山奥であり、トイレも家から出て歩いて行かねばならない1990年代のベトナムの田舎のような大変な地域であったが、ハノイ人文社会国家大学のチン教授の指示で、事前に村との調整をしてくれた二人の学生のおかげで、ベトナムの少数民族地域では通常不可能な民家宿泊ができ、どうにか調査を敢行できた。 その他、今年度はハノイの中心部を除き、国境地域の調査ばかりで不慣れな地域が多かったが、研究分担者の協力も仰いで、概ね計画どおりの資料収集とインタビュー調査を実施することができた。 ベトナムと中国の政治的関係に中国系住民が翻弄される状況をより多くのインタビューを重ねて具体化することができたことは収穫である。かつ、古い時代に中国から移住して現在は完全にベトナム人化している人々と、新しく移住してきた、あるいは同様に数百年前に移住しても、「華人」としてのアイデンティティを維持している人たちの違いも、何が要因なのか徐々にわかってきた。事例を集めるにしたがって、大きな歴史的な背景や政治情勢に加えて、それぞれのおかれた環境の地理的な違いや、個々人の職業や地位、ジェンダーの違いなども、同化の過程に細かな違いを生み出してきていることが明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の2019年度は、8月にベトナム南中部のビントゥアン省・ニントゥアン省で1週間程度のフィールド調査を予定している。ビントゥアン省ソンマウは、北部中越国境でフランス植民地期に「ヌン自治国」を形成していたガイと呼ばれる客家系の人々が、1954年の南北分断時にサイゴンに渡り、その後再移住して住み着いた地域である。かれらを訪問して、インタビューと資料収集を行いたい。またニントゥアン省の中心都市ファンランには、海南島出身者たちの大きな会館があるが、先行研究は全くないので、そこでも資料収集し、中南部の華人の歴史と現況の一端を明らかにする予定である。 最終年度であるので、12月に京都と東京で、研究分担者2人に加え、ベトナム側で一貫して研究に協力していただいたハノイ人文社会国家大学のグエン・ヴァン・チン先生を招いて、4人でまとめのセミナーを開催する予定である。内容はまだ仮の状態ではあるが、1978-79年の中越関係悪化時のハノイの華人の状況、同時期の中越国境クアンニン省の省政府の華僑・華人政策、南部メコンデルタにおける「明郷」とはどういう人々なのか、また中部の古都フエにおける明郷による伝統医療の継承と実践、といったものになる予定である。
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Research Products
(8 results)