2019 Fiscal Year Annual Research Report
焼畑の在来知を活かした日本の食・森・地域の再生:地域特性に応じた生業モデルの構築
Project/Area Number |
16H03321
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Research Institution | Kyoto University of Advanced Science |
Principal Investigator |
鈴木 玲治 京都先端科学大学, バイオ環境学部, 教授 (60378825)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
野間 直彦 滋賀県立大学, 環境科学部, 准教授 (80305557)
黒田 末寿 滋賀県立大学, 人間文化学部, 名誉教授 (80153419)
増田 和也 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (90573733)
大石 高典 東京外国語大学, 現代アフリカ地域研究センター, 准教授 (30528724)
島上 宗子 愛媛大学, 国際連携推進機構, 准教授 (90447988)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 環境調和型農林水産業 / 実践型地域研究 / 土壌学 / 地域資源 / 地域活性化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、滋賀県余呉町中河内の雑木林及びスギ植林地を伐開し、焼畑によるヤマカブラ栽培を行った。伐採したスギの枝葉を燃やしたスギ植林地の焼畑では、雑木林の焼畑に比べて火入れ後の土壌中のカリウムの増加量が少ない反面、カルシウムの増加量が非常に大きかった。これは、スギの枝葉中の高いカルシウム含量を反映した結果であると思われる。一方、スギ植林地の火入れ後の土壌中の無機態窒素の増加量は、雑木林の焼畑に比べ有意に少なかった。このスギ植林地は休耕田跡の平地に植林されたもので、土壌水分量が高かったために火入れによる地温上昇が妨げられ、焼土効果による無機態窒素の増加が抑制された結果であると思われる。 これらの焼畑で収穫したヤマカブラは、京都市のレストランや漬物屋に食材として提供しており、独特の風味と食感を持つ在来作物として高い評価を得ている。また、「全国在来かぶらサミット2019 in 滋賀」(2019年12月1日)でのポスター発表を通じ、全国の在来カブ生産者と在来品種の保全や食文化の継承と発展について議論し、在来カブの調理法や生産体制等に関する情報交換を行った。 また、スギ植林地の焼畑におけるスギの伐採・玉切り・搬出は、自伐型林業組合「木民」及び長浜市地域おこし協力隊との協働で実施した。余呉町では林業技術を磨く現場が不足しており、本研究の取り組みは隊員の訓練の場の確保と林業後継者育成にもつながっている。搬出したスギ材は植林地の地権者から地元のアウトドア総合レジャー施設「ウッディパル余呉」が買い取り、スウェーデントーチへの加工・販売を行った。研究者、地域おこし協力隊、木民、ウッディパル余呉、地権者が少しずつ土地・資金・労働力・科学的知見等を提供しあうことでヒト・モノ・カネ・情報の好循環が生まれ、中山間地域の農林業や環境の再生に向けた一つのモデルケースが構築できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した計画に沿って、順調な調査研究活動を展開中である。滋賀県余呉町における実践型の焼畑研究を通じ、伐採前の植生の違いがもたらす土壌養分動態の差異や休閑地の植生回復状況の差異など、先行研究が少ない日本の焼畑に関する農学的・生態学的データが蓄積できている。 また、2017年3月及び2019年3月に開催した第1回及び第2回焼畑フォーラムを通じ、焼畑実践者間の密なネットワークが全国レベル(九州・四国・中国・近畿・東海・北陸・東北)で構築できており、これらのネットワークを活かした地域間交流・地域間比較がスムーズに行えている。各々の地域の生態環境に応じた作物栽培や火入れのあり方、焼畑運営の社会経済的な存続要因や成立過程、現状での利点や問題点を整理し、地域特性に応じた焼畑の最適モデルの検討に向けた情報整理も行えている。 余呉町においては、スギ植林地の焼畑に関わる様々なアクターが少しずつ土地・資金・労働力・科学的知見等を提供しあうことでヒト・モノ・カネ・情報の好循環を生むモデルケースが構築でき、焼畑を核にした農林業や環境再生のための余呉町の生業モデル確立に向け着実に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、食・森・地域を有機的に繋ぐ生業として焼畑に着目し、中山間地域に眠る生態資源や人的資源を活かしながら、焼畑を核にした農業再生・里山再生・地域再生を目指すものである。今後も、これまでに行ってきた滋賀県余呉町での農学的・生態学的調査や聞き取り調査を継続すると共に、日本各地で営まれる焼畑地での聞き取り調査、参与観察に基づく地域間比較に力を入れる。 本研究の最終年度には、滋賀県長浜市において「第3回焼畑フォーラム」を開催する。なお、コロナ禍での開催が難しい場合は、オンラインでの開催を検討する。焼畑実践者の全国集会である本フォーラムでは、伝統的な焼畑継承者や、焼畑復活に関わる行政、森林組合、市民団体、地域おこし協力隊、大学関係者など多様な焼畑実践者が一堂に会し、日本の焼畑と農山村の将来像に関する多角的な議論を行う予定である。
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Research Products
(15 results)