2016 Fiscal Year Annual Research Report
戦争と慰問文化―慰問の実践とシステムに関する文化史研究
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16H03327
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
山崎 明子 奈良女子大学, 生活環境科学系, 准教授 (30571070)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森 理恵 日本女子大学, 家政学部, 教授 (00269820)
池川 玲子 大阪経済法科大学, アジア太平洋研究センター, 研究員 (50751012)
内海 愛子 大阪経済法科大学, アジア太平洋研究センター, 教授 (70203560)
藤木 直実 日本女子大学, 家政学部, 研究員 (90636185)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 慰問 / 歴史 / ジェンダー / 戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本は近代戦において「戦地」と「銃後」という空間にジェンダー的意味を与えてきた。その間を「慰問」という行為が媒介し、「慰問品」は両者をつなぐものとして機能してきた。近代日本における「慰問」の諸相を調査・分析することから、近代戦を下支えしてきた慰問の意味を検証することを目的とする。 今年度は大きく共同の調査と各自の調査研究、研究会での報告という形で研究を進めた。共同調査は、奈良県が所有する戦争関連文献と真珠湾(米)の戦争関連施設を対象とした。(個別調査については省略)また、28年度は3回の研究会を開催した。第1回研究会において本プロジェクトの研究射程を共有し、各自の分担を明確にし、第2回研究会では、藤木直実による「「童話作家協会による出版事業をめぐってー『銃後童話読本』を端緒として」」と 押田信子氏による「『兵士のアイドル 幻の慰問雑誌に見るもうひとつの戦争』を中心に」が報告された。銃後童話のテクストとその背景から慰問する主体の構築、また慰問雑誌の分析から慰問をめぐるジェンダー構造が明らかにされた。第3回研究会では福間良明氏による「「特攻の町・知覧」の成立と変容:メディアと「記憶」の相互作用」、山崎明子による「『日本婦人』にみる「慰問」ディスクール」が報告された。知覧の戦後の在り方から戦時の記憶をいかに立ち上げるかが焦点化され、また『日本婦人』の言説から「慰問」によって戦地を想像することを促されることが明らかになった。 以上の研究報告によって記憶と想像のコントロールが戦争遂行に不可欠だったことが大きな成果として得られた知見であると考える。この知見を起点として、今後も戦時「慰問」の社会的役割と機能について精査していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね順調に進展しているが、2点計画を変更することがあった。一つは、当初予定していたニューオーリンズ共同調査が現地の天候不順から不可能と判断し、遂行できなかったため、後日真珠湾への調査へと切り替えた。次年度以降の調査に組み込むことを検討している。もう一つは、第4回研究会を予定していたが、発表者の怪我により中止することとなった。これについても、次年度の研究会報告を予定している。 これらの点を勘案しても、本年度の研究はおおむね順調ということができ、分担者それぞれの資料収集や調査活動は活発に行ってきた。特に慰問関連の文献資料の収集はかなり進み、様々な形で存在していた慰問・慰問品の状況が把握できるようになってきた。銃後の市民生活の多くの場において雑多に、しかし一定の形で統制されていたこと、それが組織的でありながら市民の主体的意志によって遂行されてきたことなど、文献資料から読み取ることができる。また、北米の軍事資料展示との比較から日本の慰問の在り方を相対化することができたことも本研究の大きな進展につながった。海外の慰問活動との比較および海外における日本の慰問品の蓄積調査によって、同時代の他国のまなざしや慰問品への関心が読み取れ、新たな視点を多く得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
第一に史資料調査を継続し慰問実践を精査する。特に赤十字社および満蒙開拓関係の資料から慰問の記録をまとめていく。第二に、海外施設との比較を行う。やむなく中止したニューオーリングの調査、英国戦時資料の調査、韓国における調査など、各分担者が計画し全体を取り纏め報告を行うこととする。部分的に共同で行うことも検討しており、資料の規模と質により随時判断したい。第三に研究会を開催し、資料の分析・検討、さらに慰問・慰問品に関する議論を深める。特にゲストスピーカーの講演から多くの示唆を得ることができると考えており、幅広く長期にわたって存在していた慰問の複雑な側面をゲストスピーカーとのディスカッションを経て明らかにしていく予定である。 なお、これまで同様、陸海軍恤兵部関連資料の調査(防衛省資料閲覧室)での調査も引き続き行う。陸海軍関係の資料調査は、資料が十分に残されていないこと、また慰問という視点がこれまで欠落してきたことなどから、難しい状況である。しかし、慰問を管理した組織の形が見えることによって当該社会における「慰問」の評価が可能になると考える。 以上のように、基本的に前年度の継続とさらなる調査研究の推進を図り、課題を共有しつつ進めていくこととなる。
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Research Products
(10 results)