2017 Fiscal Year Annual Research Report
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16H03354
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤原 聖子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10338593)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
奥山 史亮 北海道科学大学, 全学共通教育部, 講師 (10632218)
江川 純一 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (40636693)
久保田 浩 立教大学, 文学部, 教授 (60434205)
木村 敏明 東北大学, 文学研究科, 教授 (80322923)
宮嶋 俊一 北海道大学, 文学研究科, 准教授 (80645896)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 宗教学 / 宗教現象学 / オランダ / ドイツ / 北欧 / イタリア / シカゴ学派 / 比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
全体として、海外調査の結果を分析することにより、国内の宗教現象学の受容と展開についても新たな視点を得ることができた。 海外調査では、10カ国において宗教現象学研究を担った、ないし深く関わったと他の研究者から見なされている、現在70~90歳の宗教学者(「宗教現象学世代」)に聞き取りを行った。その結果、調査を行った、オランダ、ドイツ、スウェーデン、フィンランド、イタリア、イギリス、カナダ、アメリカ合衆国、韓国のうち、その国に確かに宗教現象学が存在した、ないし今も存在すると回答したインフォーマントがいたのは、現在の一般的理解(オランダ、ドイツ、アメリカ合衆国がその中心地であるとするもの)とは正反対に、イギリスと韓国に限定された。特にマールブルクの調査では、代表的な宗教現象学者と言われていた宗教学者が、宗教現象学者を自認していなかったことがわかった。これらは従来の宗教現象学史を塗り替え得る発見であるが、なぜこのような結果が得られたかについて分析を行った。推測されることとして、特定の学派やカテゴリーに自分が他人によってアイデンティファイされることに対する一般的な抵抗感もあると考えられるが、それ以上に、「宗教現象学」という言葉のイーミックな用法にスペクトラムがあり、その明確化によりこの謎は説明づけられることがわかった。従来から、「宗教現象学」の語は多様な意味をもつということが指摘されてきたが、単に多様なのではなく、通文化的な分類と構造化が可能であり、それに基づき、各国の文脈での展開を比較し、それぞれの特徴を明確化することができた。また、これら代表的な10カ国だけでなく、アフリカ、中南米等での宗教現象学の受容についても調査を進めることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた調査をほぼすべて実施することができた。海外の約10名の研究者の協力を得た10カ国海外調査については、国際宗教学会(IAHR=International Association for the History of Religions)叢書の企画として、英文論文集Global Phenomenologies of Religion: An Oral History in Interviews(Equinox社)の形で刊行する。当初の刊行予定時期からは遅れているが(その主な原因は、編者それぞれの多忙期・作業可能な時期が、国が異なるとずれることにある)、全ての章の原稿は既に出揃っており、本年度前半には入稿の予定である。 これに伴い、国内の調査についてもどのような形式でまとめるかについて目途がつき、最終年度に作成する報告書の方針が定まった。 国内の研究分担者による、海外の宗教現象学史に関する文献資料を用いた分析も進んでおり、とくにM・エリアーデの宗教学の形成過程において他の研究者との間でどのような影響関係が存在したかについて新たな発見があった。北欧に関してはデンマークの宗教学において、現在も宗教現象学の名称が大学教育の文脈で用いられており、なおかつ認知科学的宗教学と共存していることが確認され、通り一遍ではない宗教現象学の継承のあり方について知見を深めることができた。アフリカについては、東部諸国でイギリスの宗教現象学の影響が見られるが、同時に植民地状況を踏まえての独自の展開もあることが確認できた。 さらに昨年度の新たな展開として、7月のマールブルク調査時に、IAHRのアーカイヴに未開封資料があることがわかり、これが宗教現象学史に関わることが予想され、3月に追加の調査を行ったことがある。これにより収集した資料の分析も報告書に加える予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は最終年度に当たるため、研究成果のとりまとめとその発表を中心とする。 国内調査については、前年度までに実施した聞き取り調査に分析を加えたものを、報告書にまとめていく。報告書には関連文献や基礎情報のデータベースを加える。また、研究分担者による、オランダ、ドイツ、イタリア等での宗教現象学史に関する文献調査に基づく研究成果も収める。それに先立ち、研究分担者は成果を、9月の日本宗教学会・学術大会でパネル形式により発表する予定である。研究代表者は総合的な分析の一部を9月のドイツ宗教学会(DVRW)、ならびに国際宗教学会(IAHR)の会合において発表する予定である。 海外聞き取り調査については、前述の英文論文集の刊行を行った後、どのようにフィードバックしていくかを検討する。 追加調査としては、イタリアのPettazzoni アーカイヴで、江川と奥山が、1950年前後の宗教現象学者の国際的交流を示す資料を収集し、分析する。また、本年度4月にはスウェーデンでGeo Widengren, Religionsphänomenologie 刊行50年に合わせた記念シンポジウムが開催されたが、その主催者の協力により、WidengrenやオランダのJ. Bleekerに関する未公開資料が公開される見通しが出てきている。これにより国際的な研究環境がさらに改善されることになる。
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Research Products
(13 results)