2018 Fiscal Year Annual Research Report
Comprehensive Research on the Role of Fiction in the Age of World Literature
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16H03409
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 将明 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (10434177)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小野 正嗣 早稲田大学, 文化構想学部, 教授 (20431778)
都甲 幸治 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (50386570)
久保 昭博 関西学院大学, 文学部, 教授 (60432324)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 世界文学研究 / 文学の時間軸 / フィクション論 / 小説の勃興 / ヨーロッパ小説 |
Outline of Annual Research Achievements |
英語圏中心ではない世界文学の見方を研究するために、ヒンディー語作家のアルパナー・ミシュラ氏ほかを招いてシンポジウムを実施した。日本語よりもはるかに多い母語話者を誇るヒンディー語であるが、その文学作品が日本で紹介されることははなはだ少ない。しかし、ミシュラ氏の作品は、最先端のIT産業の盛んな現代インドにおいて、女性たちが「前近代的」とも言える差別に苦しみ、戦う様子が描かれている。こうしたミシュラ氏の作品こそ、世界文学がひとつの時間軸で進展するものではないことを示す証拠であり、世界文学研究を真に世界的なものとして見るために重要であると認識した。 また、武田将明は社会学者の大澤真幸氏と情報科学者の西垣通氏と文学とテクノロジーをめぐる対話をおこない、古代から近代への変遷のなかで、文学がいかに変容したかについて、最新の情報科学の知見も参考にしつつ、考察することができた。このときの経験をいかしつつ、18世紀ヨーロッパ小説史を再検討する研究会も実施した。英仏独のほか、スペイン、ロシアの18世紀小説の研究者にも登壇いただき、近代小説の勃興に関する新たな見方を提示できた。 飯田橋研究会と協力し、現代の日本語作家たち(堀江敏幸、村田喜代子、高橋睦郎、平田オリザ、池澤夏樹)に積極的にインタヴューを実施した。 本科研メンバーの久保昭博はジャン=マリー・シェフェール『なぜフィクションか』の翻訳などを通じてフィクション論に関する最新の知見を深め、小野正嗣は村上春樹に関する国際学会発表などで日本文学と世界文学の関係を考察、都甲幸治はミシュラ氏シンポのコメンテイターを努めた上に、ジュノ・ディアス「わたしの鳥をさがして」の翻訳などで世界文学を日本語読者に紹介し、連携研究者の桑田光平はフランスの小説家パスカル・キニャール氏を招いた国際シンポジウムなどで最新の世界文学状況について討議した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
世界文学研究とフィクション論と文学(小説)史研究の最新の展開を踏まえて3者の接点を探ることをを目的とする本科券であるが、このそれぞれの分野について、研究分担者、連携研究者、研究代表者が順調に業績を挙げている。世界文学研究については、ミシュラ氏の講演、小野正嗣と桑田光平の国際学会発表、都甲幸治の翻訳、武田将明のカズオ・イシグロに関する講演、吉田健一とイギリス文学に関する論考など、特に多くの業績が発表された。 小説史については、武田将明が18世紀の小説家ローレンス・スターンの新しい読み方を提示する論考を発表し、神戸大学でのシンポジウム「批評と文学の他者」では18世紀小説史の全体像を再検討するる視座を提示し、(本年度の研究費を繰り越して2019年度に開催した)研究会「18世紀ヨーロッパ小説史の再検討」へとつなげた。 フィクション論関連では、久保昭博の翻訳等の業績、大澤真幸氏・西垣通と武田将明の対話などで、近代から現代におけるフィクションとは何かを考察した。 また、比較的大人数の聴衆を集めて実施するシンポジウム(ミシュラ氏の講演会など)とより専門的な内容を目指す研究会とを両立させることで、学術的な水準を維持しつつ、同時に研究成果を社会に還元することにも配慮をしたつもりである。 問題点としては、研究分担者・代表者が欧米の文学研究者であるために、世界文学研究に業績が偏りがちである点、また世界文学研究の成果をフィクション論、文学史に応用しきれていない点を挙げることができるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる次年度には、今年度までの研究成果を踏まえて、主に次の3つの方向で研究活動を進めたい。 1)東アジアの世界文学という視点。ミシュラ氏のシンポジウムが明らかにしたように、世界文学を考えるには、いま翻訳が盛んに出ている海外文学を読むだけでは不十分であり、もっと視座を広くもつ必要がある。とはいえ、手当たりしだいに文学作品を探すのは非効率である。昨今、新しい韓国の文学や中国語圏の文学が注目を集めていることと、また日本で本研究を遂行していることの意味を考えた結果、まずは東アジアという文脈で世界文学研究を再構築するのが有益ではないかと考えるに至った。そのために必要な資料を読み、国内外の研究者との連携も深め、研究成果を発表したい。 2)小説史研究と世界文学研究との接続。これは武田将明を中心に今年度も進めているが、1国・1言語中心で書かれることの多い近代以降の文学史について、世界文学的な見地から再吟味することは、「近代文学」という呪縛に囚われがちな(そしてそれゆえに「(近代)文学は終わった」という言説に屈しがちな)現代の文学研究を活気づけるのに有用ではないか。この問題意識から、ヨーロッパと日本の近現代文学を通時的・共時的に読み直す。 3)フィクション論の一般的な応用。本科研では最新のフィクション論を学びながら、フィクションと現実との関係について様々な考察をおこなってきたが、次第に明らかになったのは、文学を中心にフィクション論を扱っているだけでは、いまの世界におけるフィクションと現実との関係を見るのは不十分だということである。ゲーム研究などの成果も取り入れながら、あらためて世界文学の時代におけるフィクションのあり方を考えてみたい。
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Research Products
(29 results)
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[Book] 吉田健一ふたたび2019
Author(s)
武田将明、川本直、樫原辰郎、他
Total Pages
312(担当:196-200, 234-62, 265-66, 275-76, 276-77)
Publisher
冨山房インターナショナル
ISBN
4866000570
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