2016 Fiscal Year Annual Research Report
南アジア多言語社会における複合文化のなかの文学伝承
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16H03410
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
水野 善文 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80200020)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 守男 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90143619)
萩田 博 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (80143618)
丹羽 京子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (90624114)
太田 信宏 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (40345319)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 外国文学 / インド文学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究協力者を含めた全体研究会を2回開催し、それぞれの担当事項に関する報告を受けて討論することを通して、メンバー各々の研究分担事項についても有益な情報交換ができた。 具体的には、「ヒンディー大衆文学作家デーヴキーナンダンの描く世界」(安永報告)によって、古典サンスクリット説話やダースターンが語りの形態を経て近現代文学へ至る一つの道筋が示された。文芸の受容形態の変遷を考察する上で有益であった。「タミル古代文学における自然――地勢・季節・時間・動植物――」(高橋報告)では、タミル古代文学の約8割をしめる恋愛文学と北インドの文芸伝統ある十二ヶ月諷詠との距離が指摘され、その距離感にこそ注目すべき要素があるという新たな視点を得た。「ヒンディー語で16世紀に編まれた『ラーマの行いの湖』― その形成に資した先行作品群と後世の作品にそれがおよぼした影響 ―」(坂田報告)では、16世紀のラーマ物語が、先行の作品をどう参照し、のちの作品にどういう影響をおよぼしたかについての検証結果が報告され、他の言語への移入状況を考察する他の担当者にも大いに裨益した。「現代インド映画における『マハーバーラタ』の英雄像の継承と編成ービーマ、アルジュナ、クリシュナを中心として」(沖田報告)では、二つの映画につき、古典叙事詩のテクストを丹念に吟味しながら、戦士像が現代に忠実に継承されている例を示す一方で、全くの現代風アレンジがなされた例の紹介もあった。やはり受容という側面から、創作意図やそれぞれの時代の嗜好も、異なるジャンルの文献や芸術作品などによって補助的な情報を得ながら考察する必要性を再認識させられた。「神について語ること:中世マラーティー語のバクティ文学から」(井田報告)では、マハーヌバーヴ派の中で神の化身達に関する語りについての調査報告がなされ、宗教信仰集団における語りという一つのサンプルが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本科研開始前までに積み上げ、確立されていた6つのトピック、すなわち「十二ヶ月諷詠」「ラーマ物語」「歴史事象をめぐる文学」「映画と文学」「修辞法をはじめとする美的表現法」「様々な場における語り」につき、年度毎に重点項目を絞って進める予定でいたが、大勢のメンバーに参画いただいているので、全員が足並みをそろえることは難しく、各人の進捗に併せて研究報告をいただく形にならざるを得なかった。 2回の全体研究会における計5本の研究報告では、4つのトピックに亘ったが、複数のトピックに担当項目を有するメンバーも多勢いるので、各人の研究進捗には有益であった。 研究会のほか、論文の形で公表すべく原稿を5本提出いただいているが、予算の関係で年度内に刊行までこぎ着けなかった点は悔やまれる。
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Strategy for Future Research Activity |
参画メンバーには、既に役割分担がなされていて、「十二ヶ月諷詠」「ラーマ物語」「歴史事象をめぐる文学」「映画と文学」「修辞法をはじめとする美的表現法」「様々な場における語り」の6つのトピックのそれぞれにつき、専門地域の言語による欠かすことの字できない事例につき調査、文献読解が進行中である。したがって、引き続き、定期的に全体研究会を催して数本ずつ報告をいただき、それが他のメンバーへの情報提供となって各分担研究にも資するというように、増幅作用をもたらす方法で進めたい。 文献情報以外の芸能・芸術作品も重要な情報ソースなので、必要に応じて現地に趣き、取材することになるだろう。 前年度の積み残しである、論集刊行も是非実現させ、成果を逐次公表していくことにも努めたい。
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