2018 Fiscal Year Annual Research Report
南アジア多言語社会における複合文化のなかの文学伝承
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16H03410
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
水野 善文 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80200020)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 守男 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90143619)
萩田 博 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (80143618)
丹羽 京子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (90624114)
太田 信宏 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (40345319)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 外国文学 / インド文学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでに積み上げてきた共同研究の成果を整理し纏める方向で推進した。研究協力者も含めて総勢30名をこえる参画メンバーが集結し成果を持ち寄る機会として2回、全体研究会を開催した。 2018年7月7日の研究会では、安永有希が、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したヒンディー大衆小説作家デーヴキーナンダン・カトリーの執筆言語をめぐり、当時の言語論争や文学の状況を紹介した。代表者・水野善文は、ゴーダーナという名称の儀礼につきヴェーダから近現代までの玉虫色の様相を垣間見ながら「ラーマ物語」の伝承変容を文化的背景と照合した。石田英明は、カムレーシワル(1932-2007)の作品『 いくつのパーキスターン』(2000) における「パーキスターン」という呼称に込められた感情の観点からアウラングゼーブ、ジンナー、 マウントバテンらの役割に焦点を当てて 印パ分離独立の背景を探り、この作品の今日における意義を探った。 2019年2月2日の研究会では田森雅一が、ラージャスターンのボーパbhopasと彼らの民族叙事詩語りおよび絵解きパフォーマンスに用いられる大型の布絵phadの地理的空間と物語構造、そこに組み込まれた各種のエピソード、とりわけ「ラーマ物語」に焦点を当てて考察した。また、高橋明がインド独立後、言文一致の原則に基づいたマラーティー語の正書法定着の試みが奏功していないことの証左を示しつつ、実際の辞書編纂における試行錯誤と正書法との関わりについて、事例の一部を紹介した。 共通課題としている六つのトピック「ラーマ物語」「歴史事象と文学」「映画と文学」「十二ヶ月諷詠」「美的表現法」「語り」のうち、とりわけ前二者に関する報告が中心だったが、研究会とは別に、参画者9名から12本の論文による報告をいただき、全252頁になる中間報告書『南アジア多言語社会における複合文化のなかの文学伝承』を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究会を繰り返し開催してきたので、参画者は問題意識を共有できており、南アジアのそれぞれ専門とする時代・地域の言語による文学作品・文芸状況の分析作業を遂行している。 六つのトピック「ラーマ物語」「歴史事象と文学」「映画と文学」「十二ヶ月諷詠」「美的表現法」「語り」のうち「語り:その担い手、場、媒体」について若干成果報告が遅れているが、これは、このテーマが他のトピックともオーバーラップするからである。例えば、ラーマ物語の伝承は文字媒体よりもはるかに口承による度合いが高かったから、ラーマ物語の伝承および変容を探ることは、すなわち「語り」の様相をも分析していることに通じるのである。 中間報告書をまとめることができたことにより、これをステップとして最終段階の成果報告ができる見通しがたった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度になるので、全体を纏めることに全力を注ぎたい。昨年度まとめることができた「中間報告書」は、論集の形態をとらざるを得なかったが、さらに各時代・各地域の論考が出揃った暁には、各トピックごとの文学・文芸のダイナミックな動態が目に見える形で紹介できるよう、全体を融合して整理、まとめる作業が必須となる。 さらには、とりわけ「ラーマ物語」について、南アジア圏を超えて伝承された事実は、この文化圏内での伝承・受容を考察する上でも重要であるので、少々手を拡げ、東南アジア文化圏を専門とする研究者の協力も仰いで、研究の充実を図りたい。
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