2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H03560
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
山本 輝之 成城大学, 法学部, 教授 (00182634)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 触法精神障害者 / 刑事法 / 心神喪失者等医療観察法 / 地域精神医療 / 精神保健福祉 / 障害者福祉 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、精神障害に罹患した受刑者、精神障害に罹患した触法・犯罪少年、保護観察対象者の処遇制度をどのように構築すべきかについて、比較法的な観点から検討を行う。わが国では、医療観察法が施行され、責任能力に問題のある精神障害者については治療制度が確立したといえる。しかし、受刑者、収容少年、保護観察対象者に関しては、十分な治療体制が整えられているとは言い難い。近年、刑務所においては、窃盗癖の治療の問題、女子の摂食障害の問題、少年施設における発達障害の問題、保護観察下における治療継続の問題など新たな課題も続出しているのが現状である。そこで、本研究では、受刑者、収容少年、保護観察対象者で、精神障害に罹患している者に対する処遇制度をどのように構築すべきかについて、比較法的検討をも踏まえて、法的モデルを提示することを目的として、研究を行っている。 平成28年度は、以上の課題のうち、刑事施設内の精神医療などについて、研究組織メンバーを中心に、定例の研究会を年6回程度開催し、問題点の抽出と整理・分析を主眼として、検討を行った。その際、話題提供者には、研究会メンバーのほか、それぞれの分野における専門家をゲストスピーカーとしてお招きし、検討を行った。 なお、比較法的検討については、国際シンポジウムを開催することはできなかったが、定例の研究会の中で、諸外国の制度、そこにおける問題点とその対策などについて、特にこのテーマに精通している、趙晟容韓日法律問題研究所所長から韓国の制度などについて、お話を伺った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、受刑者、収容少年、保護観察対象者で、精神障害に罹患している者に対する処遇制度の構築について、法的モデルを提示することを目的としている。そのためには、特に、以下の2つの課題を検討する必要がある。1つは、①受刑者、収容少年の精神科医療処遇制度のあり方であり、もう1つは、②保護観察対象者の精神医療処遇制度のあり方である。前者は、一般刑務所の精神科医療供給をどのように底上げするかという問題とともに、医療観察法における指定入院医療機関を移送治療施設として使用することの可否という問題である。 後者は、矯正施設内においてどのような手厚い医療が提供されたとしても、仮出所後に治療が継続されなければ、病状が直ちに悪化し、再犯に至る可能性が極めて高くなるため、それにどのように対応するかという問題である。精神障害に罹患した対象者にとって重要なことは、治療服薬を継続することにある。医療観察法の地域精神医療のこれまでの蓄積から明らかなように、継続的な通院医療確保は対象者の社会復帰に不可欠である。この点、諸外国では、施設内治療を社会内でも継続できるよう、司法強制通院命令制度が整備されている。このような制度を研究することにより、わが国で実現可能な制度は何かを検討することが必要となる。 平成28年度は、①、②の課題について、わが国の現状を分析することにより、それぞれにおける問題点の抽出を行い、研究会メンバー間でそれについての情報共有を行うことができた。ただ、都合により、比較法的研究のための海外調査、国際シンポジウムの開催を行うことはできなかった。もっとも、それらは、わが国における現状の分析と問題点の抽出ができたうえで行った方がより良い成果が得られるのではないかと思われる。その意味で、今年度の研究は、今後の検討すべきターゲットをある程度絞り込めたという意味で、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、精神障害に罹患した受刑者、精神障害に罹患した触法・犯罪少年、保護観察対象者の処遇制度をどのように構築すべきかについて、比較法的観点からの検討をも踏まえて研究を行い、法的モデルを提示することを目的としている。 そこで、平成29年度は、前年度に引き続き、研究会活動を通じて、①受刑者、収容少年の精神科医療の処遇、②保護観察対象者の精神科医療処遇における問題点の抽出を行う。また、平成29年度は、海外視察などを行い、諸外国では、①受刑者、収容少年の精神科医療の処遇制度、②保護観察対象者の精神医療処遇制度はどのようになっているのかを調査する。さらに、それらの成果に基づいて、研究会において、①、②について、わが国で実現可能な制度は何か、最も効果的な制度は何かを検討する。 また、平成30年度には、すべての文献調査を終え、これまでの3年間にわたる研究活動の成果、海外調査による成果などを踏まえて、受刑者、収容少年、保護観察対象者で、精神障害に罹患している者に対する処遇制度について、わが国において実現可能で、最も効果的な法的モデルを提示するすること目指す。
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