2017 Fiscal Year Annual Research Report
Pursuit of Normative Economics with Extended Informational Basis and the Re-Examination of Its Doctrinal History
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16H03599
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
鈴村 興太郎 早稲田大学, 政治経済学術院, 栄誉フェロー (00017550)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 厚生経済学と社会的選択の理論 / 厚生判断の情報的基礎 / 帰結主義と非帰結主義 / 順位情報依存的なルール / 順位情報独立的なルール / 厚生経済学と経済政策論の対話 / ペアごとの単純多数決コンテスト |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究計画が焦点を結ぶ規範的経済学には、厚生経済学という第一の翼と社会的選択の理論という第二の翼がある。前年度までは厚生経済学という一翼で、社会的な厚生判断の情報的基礎を拡大する作業を進めること、現代の厚生経済学が活用する基数的で個人間比較の可能性を否定する情報的な基礎を踏まえて、ベンサムの「最大多数の最大幸福」の原理を理解する方法を追求して、この原理の現代的理解方法の開発に努めてきた。この研究は、選挙と投票の理論における「相対多数決原理」に対する新たな理解に導いて、その研究成果は既に国際的な学術誌Social Choice and Welfareに公刊されている。この具体的な成果を強い推進力として、今年度は社会的選択の理論の一翼に集中的に的を絞って、以下の焦点的な課題に対する文献的・学説史的・理論的な予備的な作業を推進することに今年度の研究努力の多くが注がれた。チャールズ・ドジソンのMethod of Marksを現代的に表現して、理論的に特徴付けること;(2)ボルダ・ルールを典型例とするポジショナルな投票ルールを精密に表現して特徴付けること;ピエール・ドヌーの投票ルールを現代的に表現して、その公理化を遂行すること。これらの基礎研究は順調に進行して、理論的に取り組むべきパズルの発見にも前進を遂げて、これらのパズルの理論的な分析は、順調に進捗しつつある。次年度はこれらの研究の収穫期になることを確信している。 選挙と投票の理論を中心とするこのような先端的な研究の推進と並行して、厚生経済学と経済政策とのインターフェイスに関する著者の研究を体系的に整理する著書『厚生経済学と経済政策論の対話』の執筆を継続中である。本来ならば今年度中に公刊されるペースで進めてきた研究だが、年度末に発見された大病と格闘するために、次年度に持ち越されることになった。早急な完成と出版を期している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
選挙と投票の理論に関する研究は順調に進捗して、3つの焦点的な問題に関する研究は既に国際的な研究者たちのサークルに予備稿を送付して、評価とコメントを求める段階に至っている。第一に、ドジソンが提唱した独特の投票ルールMethod of Marksは、全ての投票者に総投票数を平等に分配して、その総投票数を候補者たちに配分する方法は彼・彼女の自由な決定に委ねるルールだが、総投票数の内生的な決定に関しては、ドジソンも彼の追随者たちも、理論的な決定に成功していなかったが、この研究は、総投票数の的確な配分によって投票者の真正な選好を正確に表現することができること、この投票ルールが選好の虚偽表明によって歪められる危険性を最小化することという2つの要請によって、的確な総投票数そ一義的に決定することができることを論証している。第二に、この研究は順位情報依存的な投票ルールの概念を正確に定義して、そのルールの公理主義的な特徴付けを与える作業に取り組んでいる。第三に、ドヌーはボルダとコンドルセの同時代の知識人として、順位情報依存的な投票ルールと順位情報独立的な投票ルールの間の対立を止揚する投票ルールを提唱したものの、この試みの正確な理解は従来得られていなかった。この研究は、ドヌーの投票ルールの正確な表現方法を発見して、公理主義的な特徴付けを試みている。研究の現段階は満足すべき成果に纏まって、次年度の完成を確信している。 発病のために遅延した『厚生経済学と経済政策論の対話』の出版計画は、その後の入院生活の間に最終稿の完成と複数回の校正作業を終えて、2018年5月には出版の運びに至っている。 このように、投票理論の研究論文を3つのフロンティアにおいて完成させること、この研究プロジェクトを機縁として経済政策論に関する主著を出版することの両面で、本研究は当初の計画以上に進展していると自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
厚生経済学と経済政策論の対話に関する主著の出版、選挙と投票の理論における三本の研究論文の完成を、当面の課題としているが、この面の研究の完成には、大きな不安は覚えていない。これらの研究をまず完成したうえで、次の段階では、規範的経済学のもう一翼の厚生経済学の研究に力点を据え直して、以下にリストアップする課題を中心に研究を継続したい。(1)現代の規範的経済学の基礎を据えたアロー教授に献呈する国際的な研究雑誌Social Choice and Welfareの追悼記念号を、セン、マスキンの両教授と共同で企画・編集して、出版する。(2)1970年代以降の社会的選択の理論を先導してきたセンの古典Collective Choice and Social Welfareの拡大新版が2017年に出版されたが、その出版の経緯にも深く関わった私は、この拡大新版の信頼できる邦訳を作成して、その監修者解題も執筆して、出版する。(3)旧厚生経済学の創始者ピグーの体系が崩壊したのちに、新厚生経済学の建設過程に長らく貢献してきたヒックスの研究の軌跡を批判的に評価して、特に彼の「厚生主義との決別宣言」の意味とその意義を明らかにする。(4)正統派の規範的経済学の情報的基礎を批判して展開されたセンの潜在能力アプローチの理論的な核心を検討して、このアプローチを整合的に理解する分析的な枠組みを建設する。(5)社会的選択の機会の豊かさや、社会的選択の手続きの内在的な価値を厚生経済学の整合的な枠組みに取り入れて、その意味と意義を具体的な厚生経済学の枠組みに即して解明する。 これらの研究の推進過程に大きな障害を予想してはいないが、闘病生活の中でどこまで研究を完成できるかに関して多大な不確実性があることは事実である。また、闘病過程では研究上の意見交換と成果発表のための海外出張は、ほぼ断念せざるを得ないと考えている。
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