2016 Fiscal Year Annual Research Report
An Empirical Research on the Accumulation Mechanism of Children's Human Capital: Lessons from Challenge of Adachi Ward in Tokyo Prefecture
Project/Area Number |
16H03636
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
野口 晴子 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (90329318)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 隆一 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (00397704)
別所 俊一郎 財務省財務総合政策研究所(総務研究部), 研究部, 総括主任研究官 (90436741)
川村 顕 早稲田大学, 政治経済学術院, 助教 (10422198)
牛島 光一 筑波大学, システム情報系, 助教 (80707901)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 教育の経済学 / 政策評価 / 教員効果 / ピア効果 / 就学援助と学力 / 就学援助と健康 / 学力に関するパネルデータ / 教育施策のPDCAサイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,2015年を「子どもの貧困対策元年」として,現場での様々な取り組みが進められている東京都足立区との協働の下,親の所得や就業状態など,子どもを取り巻く社会的・経済的な環境要因が,学力や体力など人的資本の蓄積過程に対して与える影響のメカニズムを定量的に詳らかにし,足立区での様々な支援の効果についての実証分析を行うことを主たる目的としている. こうした目的を達成するため,2017年度においては,2009~2017年度に東京都足立区内の公立小・中学校に通学していた児童生徒全員(延べ児童生徒数367,908人:各学年約45,000-47,000人)を対象として,同区が独自に実施した区基礎学力調査に,児童生徒名簿,就学援助の申請と受給状況,東京都体力調査を紐づけ,各児童生徒を複数学年にわたって追跡可能なパネルデータの構築を行った.一地方自治体とはいえ,足立区のような大規模な人口地域において,児童生徒の学力・体力・意識,及び,就学援助の受給状況が9年間にわたって追跡可能となったのは,日本ではじめてである.現在までのところ,当該データに基づき,(1)児童の学力に与えるクラスサイズ,教歴,及び,その他の教員効果,(2)同区が小学3・4年生を対象として行っている国語と算数の補習授業の効果,(3)学級内での学力平準化傾向と学力形成におけるクラスメイトの影響,及び,(4)就学援助と学力・体力・健康との相関関係の4つのテーマに関する分析を行い,2017年度には,国内外の大学や研究機関で開催された9つのセミナーやワークショップで報告を行った.また,本研究がこれまでに得た知見については,既に足立区長にブリーフィングが行われ,6月に区議会での報告を経て,2018年度9月に開催される日本経済学会秋季大会において,特別セッションが組まれることになっている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,足立区において既に蓄積されている子どもの学力や健康に関する一連の調査に対する二次利用申請を行い,2016度中盤までに同区に設置された個人情報保護審議会を通過・承認を得る予定であったが,当該審議会での承認が遅延したため,データ整備に若干の支障が生じてしまった.このことが,2016年度における予算繰越(翌債)の原因となった.さらに,データの利用承認後においては,共通識別番号が存在せず,同一児童生徒を複数年度追跡するパネルデータの構築に,当該プロジェクトの研究者の所属機関が足立区と派遣契約を締結し,プロジェクト・チームが臨時派遣職員となって,名前・学校・クラス・性別・誕生年月日による名寄せ作業を行う必要があった.したがって,2017年度の後半に至るまでデータの突合作業に膨大な時間を費やすこととなったが,パネル化作業終了後の分析作業は順調に進み,中盤の遅れを取り戻すことが出来た. 本年度における研究からは,(1)教育経済学における最新の解析手法を用いて教員のvalue-added by educationを推定し,教員効果のばらつきが可視化されたこと,(2)中学進学後の児童生徒の学力に非線形のピア(クラスメイト)効果が観察されたこと,(3)小学校低学年での補習の実施が児童生徒の学力の改善に寄与したこと,(4)児童生徒の固定効果を統制すると児童生徒の学力に対する生活保護(要保護)の負の効果が統計学的有意性を喪失するが,他方,準要保護世帯では統計学的に有意な負の効果が残存すること,といった知見が得られた.本研究のこうした成果は,学問面で見ると,これまで,欧米の教育経済学の知見に依存していた日本の教育施策の効果について,国際的に見ても高い水準の「科学的根拠」を導出したものであり,また,政策面でも,足立区の教育施策の形成過程や現場の判断にとって有益な基礎資料となるであろう.
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Strategy for Future Research Activity |
2018年度の研究計画については,第1に,足立区より追加的なデータ(学校選択希望票,学級閉鎖状況,問題行動等生徒,Questionnaire-Utilities(QU: 楽しい学校生活を送るためのアンケート) 調査個票,多層指導モデル(Multilayer Instruction Model : MIM)対象児童名簿,中1夏季勉強合宿参加生徒名簿,就学前在園児名簿(幼稚園・保育園))が提供されることから,これまでに構築したパネルデータのさらなる充実と整備を行う.また,パネルデータについては,さらに2018年度に実施される学力・体力調査を追加し,対象期間を10年に延伸する予定である.第2に,これらの追加データを用いて,(1)学校選択制の拡大や縮小の影響,(2)授業時間数の減少や中断の影響を緩和するための授業時間数確保や補修実施の効果,(3)東京23区内でも足立区で特に多いとされる長期欠席の発生要因とその防止に対する施策の効果,(4)いじめの発生要因とその防止に対する施策の効果,を明らかにし、いじめを防止する上で有効な取り組みを見つける。(5)MIMや5歳児プログラムをはじめとする区立保育園や幼稚園における足立区独自の施策の効果,等についてさらなる定量的な分析を行う.第3に,本研究から得られた成果について広く国内外の学会・セミナー等で発表し,国際的な査読専門誌に投稿を行うとともに,足立区を中心としたワークショップやシンポジウムを開催し,首長・行政担当者や,子どものHCの蓄積の現場である家庭(親)・保育所・幼稚園・小学校との議論を通じ,本研究で得られた実証的知見が果たして現場の実体験に合致するかどうか,また,こうした科学的根拠をどのように政策形成や現場での判断に活用することが出来るか,その有効性・実効性についての検証行う.
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