2016 Fiscal Year Annual Research Report
ナショナリズムの可変性と不変性-継続的全国調査に基づく実証研究
Project/Area Number |
16H03702
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田辺 俊介 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (30451876)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松谷 満 中京大学, 現代社会学部, 准教授 (30398028)
阪口 祐介 桃山学院大学, 社会学部, 准教授 (50589190)
永吉 希久子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (50609782)
濱田 国佑 駒澤大学, 文学部, 講師 (50634523)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
|
Keywords | ナショナル・アイデンティティ / 排外主義 / 沖縄 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度は、2009年・2013年データの再分析を行うことで、現状の問題点を確認するとともに、新たな知見の獲得・探求を目指した。その研究成果は、主に各種国内学会(日本社会学会、数理社会学会等)における報告として発表した。 具体的な知見としては、例えば日本社会における「排外主義」、中でも特に強い「嫌韓・嫌中」(極端な排外主義者)の全体的傾向を2009年と2013年データから確認した結果、ナショナリズムの一側面(愛国主義)の影響が強いこと、また脅威認知の影響も特に2013年で強まっていることが示された。この点は、国家間の紛争が「国対国」というレベルの人々の集団志向性を刺激した結果と考えられ、2009年に比べて2013年に強い嫌韓・嫌中層が増加した原因の一つと解釈している。一方、スケール化して線形で検討した際には排外主義を高める傾向をもつ権威主義と年齢について、極端な排外主義者か否かについてのロジスティック回帰分析の結果では、「負」の影響を持っていた。この点から、極端に強い排外主義を表明する層と、より弱い形態の排外主義を抱く層の間に、一定の質的相違が存在する可能性が示唆された。 他にも研究実績として例えば、政治的関心が高い地域でのみ、反差別的態度をもっている人がヘイトスピーチ規制法を支持するようになることが明らかになった。また、排外意識の高揚について、差別に関する「記述的規範」と「命令的規範」、潜在的な排外意識と顕在的な排外意識を区別することによる検討なども行った。 さらに本年度の実績として、2013年に取得したデータに対する最終的なクリーニング作業を行い、データアーカイブへの寄託準備が終了した点が挙げられよう。そのため、2017年度の早い時期に、日本最大のデータアーカイブであるSSJDAにデータを寄託する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度に計画する本調査に向けた準備として、2009年と2013年に取得したデータ分析を進め、その上で2013年に行った「国際化と政治意識に関する世論調査」の調査票をベースとして調査項目の選定・作成を行った。特に重要な継続項目の選定と新規項目の作成については、研究会やメーリングリストなどを通じて活発な議論を実施している。具体的には、一部分析に用いなかった質問(「愛国心の効用」など)を減らし、その替わりにナショナリズム項目や政治意識項目を再検討し、また重要な規定要因と考えられる諸変数(デモ参加などの政治行動、文化資本などを含む政治的社会化期における生活環境等)の追加について検討中である。加えて沖縄調査における必要な課題の洗い出しとともに、全国データと比較すべき点についても議論を行い、論点を明確化した。 さらに2017年度の実査における市区町村の選択について、2015年国勢調査データに準拠し、外国人居住率で層化した上で、無作為抽出によって全国60地点を抽出し、対象地点の選挙管理委員会との連絡のための基礎情報の整理が終わっている。 それら研究と作業によって、今後の研究課題が整理され、また解決すべき課題は明確化され、実査の基礎的な準備も着実に進んでいる。以上から、基本的に当初の計画通り、全体の研究は順調に進んでいると言って良いと考える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は昨年度の研究成果を踏まえつつ、全国と沖縄を対象とした大規模調査を実施する。 まず日程については、予備調査向け調査票の確定を6月に、7月の早い時期に予備調査を実施予定である。その上でサンプリング(無作為抽出)については7月~9月の時期に、各市区町村の選挙人名簿をもとに18歳以上79歳以下の日本国籍保持者を対象として行う予定である。またサンプリングのために市区町村の役所を訪問する際、同時に地域での外国人政策や自治体改革についての定型化した聞き取りを行い、地域状況の変数とする。 実査については、10月から11月にかけて行う予定である。調査方法としては、低予算でありながら、適切な方法を用いれば回収率の改善も期待できる郵送法を用いる。ただしその回収率が30%程度にとどまる可能性もあり、一方各都市の分析ケース数を50程度は確保する必要性から、各市区で150ケース抽出し、合計9,000ケースの抽出を想定している。また沖縄調査も同様に10地点の抽出し、合計1,500ケースを抽出予定である。 実査については、調査票の印刷に加え、その封入・送付作業は業者に委託して行う。なお回収率向上のために、ボールペン等を薄謝として同封する。また調査回収数が減ってきた時点で二度、未回答の対象者に対して督促状を送付し、回収率の向上を目指す。 また2009年と2013年に行った調査と同様に、回収票の整理やデータ入力作業とデータコーディング・クリーニング作業については、データのクオリティ・コントロールのためにも業者に委託せず、学生アルバイトの協力を得ながら自力で行う予定である。それによって回答者の生の回答をできるだけ確認するとともに、入力上の問題点などを現場で解決することとなり、後のデータ分析において発生する可能性のある問題点を最小化することができると考えている。
|
Research Products
(8 results)