2019 Fiscal Year Annual Research Report
The Variability and Invariability of Nationalism: Empirical Assesment Based on Repeated Cross-sectional National Survey
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16H03702
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田辺 俊介 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30451876)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松谷 満 中京大学, 現代社会学部, 准教授 (30398028)
阪口 祐介 桃山学院大学, 社会学部, 准教授 (50589190)
永吉 希久子 東北大学, 文学研究科, 准教授 (50609782)
濱田 国佑 駒澤大学, 文学部, 准教授 (50634523)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | ナショナル・アイデンティティ / 排外主義 / 沖縄 / 政治意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度は、代表者と分担者4名に加えて研究協力者4名の協力を得て『日本人は右傾化したのか―データ分析で実像を読み解く』というタイトルの学術図書を、勁草書房より刊行した。その図書の全体的な結論としては、中国と韓国への排外主義や民族的純化主義は強まり、また愛国主義が自民党への支持や投票への影響力を強めるなど、一部ナショナリズムの下位概念と政治との関連は強まっていた。一方、安倍政権が長期化する中でも愛国主義の平均値は微減ではあるが低下し、また一般に「左」と見なされる脱原発の世論が維持され、さらに若者も権威主義以外は「右傾化」していなかった。つまり、いわゆる「右傾化」という傾向が、あくまで一部に限られていたことが確認された。 その上で個別の成果としては、外国人増加への否定的評価が現実的な脅威の正確な反映ではなく(3章)、排外主義的傾向も生活圏の外国人比率などとは関連が弱い(4章)など、それらがナショナリズムの一部として形成される意識であることが確認された。また2009年の民主党政権期と比べ、13年と17年の自民党政権期では愛国主義や民族的純化主義が強い人ほど自民党を支持する傾向が示され(6章)、投票行動についても(2012年衆院選に比べて)2017年の選挙においては純化主義と排外主義、また外国人一般排外主義の自民党投票への影響力が強まっていた(7章)。そのようにナショナリズムが政党間対立に強く影響するようになってきた様相が示された。さらに「若者の右傾化論」についても実証的に検討した結果、2010年代の日本の「若者」の特徴として明確に指摘できるのは権威あるものには従ったほうがよいという権威主義的傾向が(以前の世代よりも)強まっていることのみであり、他の意識には特に右傾化の傾向は見られず、いわば「右傾化なき保守化」という状況であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画当初において最終年度の2020年度内の刊行を予定していた学術図書について、2019年11月に出版を行うことができている。その図書については、関連・近隣研究領域の研究者から高い評価を受けたり、また複数の新聞での書評に取り上げられるなど一定の社会的評価も得ることができた。それら諸点を鑑みれば、全体としては計画以上の進展状況であると言えるだろう。 ただし、昨年度末に実施予定であった上記学術図書の合評会・講評会などについては、現在のコロナ禍の影響もあり、日程調整が進んでおらず、まだ実施できていない。また沖縄データを用いた地域間比較なども、研究会などの開催が延期になったり、現在の状況への対応に追われるメンバーが多いことから、若干進行が遅れている。ただし、オンライン会議等の代替手段での実施は可能と考えており、その点では大きな遅延とはならず、研究を進展させることができると考えている。 その上で、次回2021年に実施予定の次回調査に向けた準備作業も開始していることから、全体としては「おおむね順調」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」にも一部記載したが、2019年度に出版した図書に関し、社会学領域の研究者のみならず、近隣諸科学の中でも親和性の高い政治学の研究者にお声がけをした上での合評会・講評会を行う予定である。そのように関連・近隣研究者からの忌憚なき評価・批判を受けることを通じて、今後の研究の改善点を探るとともに、次回以降の調査において必要な修正点・改良点を確認していく予定である。その上で可能な限り、それら視点を生かした新規な研究を進め、引き続き各種学会での報告を行うとともに、海外のジャーナルも含めて査読付き論文を執筆・投稿を行う予定である。 また本課題のテーマの一つである地域間比較については、データを取得済みでありながら、まだ生かし切れていない沖縄調査のデータを分析し、その成果の公表が大きな課題として残っている。現在、本土データと沖縄データの比較分析について、基礎的分析は終えているが、学術論文などの形に出来ていない。この点も上述のように研究会の開催が遅れているが、オンラインでの開催などを行いながら、少なくとも報告書などの形であっても、成果を公表する計画である。 また今年度については、4年ごとの継続調査を続けるためにも、2021年調査に向けた準備を着実に進めていく予定である。特に現在のコロナ禍の影響から、政治的状況も不安定化しており、2021年の本調査に向けた予備調査として、同時に現状のコロナ禍下に発生している「コロナフォビア」とナショナリズムの間の関連を検討するためにも、オンライン調査などを実施することも計画している。
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Research Products
(9 results)