2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H03917
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Research Institution | Tokyo Woman's Christian University |
Principal Investigator |
荻田 武史 東京女子大学, 現代教養学部, 准教授 (00339615)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
尾崎 克久 芝浦工業大学, システム理工学部, 准教授 (90434282)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 数値線形代数 / 高精度計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度として、アダプティブな数値線形代数アルゴリズムを設計する際の突破口となる見通しの良い問題を取り上げて、その問題に対する数値計算アルゴリズムを構築した。具体的には、連立一次方程式に対して、係数行列の条件数に関わらず常に最良の近似解を得ることが可能な数値計算アルゴリズムについて研究を進めた。 一般の実行列について、近似解を求めるための有力な数値計算アルゴリズム(LU分解)と近似解の精度を高めるための反復改良法、及び近似解の高速な精度保証アルゴリズムが知られているため、それらをベースとした。条件数が大きい場合は、通常の数値計算アルゴリズムでは精度の高い近似解を得ることができないため、本研究者らが開発した高精度な行列分解アルゴリズムを導入した。これによって、条件数を低減させながら高精度な近似解を得ることが可能となった。実対称正定値行列については、ブロック計算を有効利用することにより、誤差限界の評価が改善されることを示すことができた。 また、高精度な行列積計算アルゴリズムの開発を行った。具体的には、行列積について、faithful roundingという、真の解に隣接する浮動小数点数を返す高速なアルゴリズムを開発した。良条件の場合には近似計算の6倍程度の時間でfaithful roundingを達成できることを数値実験により示した。 さらに、テスト問題として、厳密解がわかる連立一次方程式の数値解・特異値・固有値などを与える手法を開発した。これにより精度保証プログラムの正しさの検証が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、順調に進展している。理由としては、研究実施計画における以下の目標を達成できたからである。 (1) 連立一次方程式に対して、係数行列の条件数に関わらず常に最良の近似解を得ることが可能な数値計算アルゴリズムについて研究する。 (2) 提案アルゴリズムの効率化を高めるために、行列乗算の高精度計算に関する研究を推進する。 具体的には、(1)について、一般の実行列については、近似解を求めるための有力な数値計算アルゴリズムと近似解の精度を高めるための反復改良法、及び近似解の高速な精度保証アルゴリズムをベースとして、条件数を低減させながら高精度な近似解を得ることが可能となったこと、実対称正定値行列については、ブロック計算を有効利用することにより、誤差限界の評価が改善されることを示すことができたことが評価できる。また、(2)について、行列積の計算に対して最良に近いfaithful roundingを達成する高速なアルゴリズムを開発し、良条件の場合には通常の近似計算の6倍程度の時間でそれが達成できることを数値実験によって確認できたことが評価できる。これらの研究成果を学会等で発表し、コメントのフィードバックや他の研究者との議論を踏まえた上で研究の質をさらに高めている。 このように、研究計画に沿って研究を推進できていることがわかる。
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Strategy for Future Research Activity |
予定通り研究は推進されているため、今後も研究計画に沿って本研究を推進していく。具体的には、次年度は、対称系の固有値問題に対して常に最良の近似解(固有値及び固有ベクトル)を得ることが可能な数値計算アルゴリズムを開発する。対称系の固有値分解は、直交行列による変換に基づくため、通常のアルゴリズムによって得られた近似解を前処理に用いて適応的に行列の条件数を下げることはできない。したがって、連立一次方程式の場合とはまったく異なるアプローチが必要となる。これについては、研究代表者は既に予備的な研究を開始しており、対称系の固有値問題に対して、従来にはない革新的な高精度計算アルゴリズムを開発する見通しが立っている。基本方針としては、特定の固有値分解アルゴリズムに依存しない、一般的な高精度化の方式を考え、汎用性を確保する。 また、上記と並行して、提案アルゴリズムの効率化を高めるために、行列乗算の高精度計算に関する研究も継続して推進する。
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