2016 Fiscal Year Annual Research Report
超高速・高解像顕微鏡による暗黒物質探索用超微粒子原子核乾板の読み出しの開発研究
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16H03976
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中野 敏行 名古屋大学, 理学研究科, 講師 (50345849)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / 原子核乾板 / 顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
天文学および物理学上最大の謎の一つである暗黒物質問題において、その正体がWIMPである仮定の下、その到来方向に感度のある原子核乾板を用いた探索を実現するため、超高速かつ高解像度な顕微鏡システムを開発することを目的とする。 名古屋大学で開発した超微粒子原子核乾板(NIT)は、暗黒物質により反跳されたものと同等の運動エネルギーをもつ原子核を飛跡として記録する能力をもっていることが明らかになっている。一方で、方向感度を持たないが、先行しているDAMA/LIBRA実験が報告する質量および散乱断面積の領域を探索するには、25kg以上の超微粒子乾板に記録された100nm程度の反跳原子核の飛跡を実用的な時間で解析可能としなければならない。 本研究では1台の装置で年間2kg相当の原子核乾板を解析可能な光学顕微鏡システムを開発することを目標とし、これによって例えば本装置3台×5年間で前述の領域を探索することを可能にする。 本年度は、まず測定装置系の基礎となる、高速駆動可能な顕微鏡ステージの開発をおこなった。ステージの駆動時間は画像データ取り込みの本質的なデッドタイムであることから、極力短時間とすることが望ましい。また、今後の開発において光学系が大きくなることが予想され、高剛性であることが重要であることから、鏡筒取り付け部の振動をシミュレーター使い解析し、振動時間の削減をおこなった。 一方で、高分解能のNA1.49の対物レンズを導入し光学系の評価を行し、広視野化に必要なチューブレンズ(第2対物レンズ)の設計検討を行った。既存のチューブレンズでは、広視野化における視野数の制限やアポタイゼーションマスクや複数撮像素子の導入がが困難であるため、本装置に適する専用チューブレンズの設計検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、導入予定であった、高画素大型撮像素子の入手が製造元都合により納入が遅延した。製品の仕様検討に時間を要したこともあるが、より高性能かつ安価な代替品の入手可能性について追及したことも要因の一つに挙げられる。対応としては、すでに特性の把握済みの手持ちの撮像素子によって、新規に製作したステージおよび光学系の評価はおこなった。高画素大型撮像素子については、現在評価を継続している。 対物光学系においては、当初使用予定であった対物レンズの候補1(60倍)については、視野がより広いという利点があるものの、周辺部における収差が大きくなることが判明した。しかし、合焦点においては分解能を有しており、今後この合焦点を抽出することで広い視野を利用することを可能とする、画像処理および補正光学系を検討することで対応することとした。またより収差特性上無理のない第2候補の対物レンズ(100倍)についてもその特性の評価を並行して行い、本研究の当初目標の達成に向けて推進する。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、以下についての研究開発を行う。 ・顕微鏡ステージの改良 - 昨年度に開発した、顕微鏡ステージの効果的な駆動方法の改良研究を行い、より効率的な解析を行えるような手法を実現する。 ・Point spread functionの改良 - 対物レンズの出射瞳位置にアポタイゼーションマスクを導入することで、水平分解能の向上および評価を行い、反跳原子核のエネルギー閾値の低減を研究する。 ・複数焦点面での画像取得 - N暗黒物質の到来方向に最も分解能に優れ検出感度の高まる向きに設置し観測することで、NIT 解析においては光軸方向の分解能は期待していない。一方で顕微鏡の焦点深度はnλ/NA2 で表現でき、λ=435 nm、NA=1.4、n=1.45 とした場合は630 nmにしかならないことが、読み出し速度の観点からはデメリットとなる。つまり1フレームで撮影できる体積は、240×240×0.6=3.5×104 μm3となり、これは原子核乳剤質量16 μgに相当する量となる。こから換算すると、1秒間に150画像を取得した場合でも、年間520 gであり目標値には達しない。そこで、前記の複数撮像素子による撮影を用いることで、1 μm程度異なった焦点面の画像を同時に撮影することを試みる。複数素子に対応したチューブレンズ系の設計検討を行っており、実装試験及び光学評価を行い、実サンプルを用いた検出効率への影響評価等を進める。
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