2016 Fiscal Year Annual Research Report
複素ランジュバン法による有限密度QCDの第一原理計算
Project/Area Number |
16H03988
|
Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
西村 淳 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (90273218)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松古 栄夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 助教 (10373185)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 格子ゲージ理論 / 量子色力学 / 有限密度系 / 符号問題 / 複素ランジュバン法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はPCクラスタを用いた計算により、格子サイズとして虚時間(温度軸)方向L=8、空間方向L=4をとることにより、Silver Blaze現象の兆候を確認した。具体的には、化学ポテンシャルに依存しない領域が、物理的に予想されるものと一致することを確認した。特に、ドリフト項の特異点を避けるために、ディラック演算子をいったん変形し、その際に導入した変形パラメタをゼロに外挿する、という手法を用いることにより、当初の目標を達成できた。また、ゲージ・クーリングなどに関連した最適化も行った。これにより、有限密度QCDに対する新しいアプローチとしての複素ランジュバン法を確立できた。 次のステップでは、格子サイズを2倍から4倍とした計算を行う。ここでは引き続き、staggeredフェルミオンを用いたシミュレーションを行う。このフェルミオンの定式化は連続極限で4フレーバーのクォークに対応するため、現実のQCDの状況とは異なるが、計算コストが低いので、方法論のテストに適している。 必要とされる計算量は、概ねシステム・サイズに比例して増加することが予想され、これまでの16倍から256倍の計算量になってしまう。このため、スーパーコンピュータやGPU計算機を用いた大規模計算が必要不可欠である。そこで、必要となる並列コードを開発し、並列計算の準備を整えた。 さらに、上に述べた複素ランジュバン法を、もう一つの方法であるレフシェッツ・シンブル法と組み合わせた方法を考案し、簡単な模型の場合に用いてみた。これにより、今まで明らかでなかった両者の関係性を深く理解することができ、今後、さらに効率の良い方法を開発するための基礎を築くことができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
有限密度下における量子色力学の性質を第一原理計算により明らかにすることは、符号問題のため極めて困難であることが知られている。我々は最近進展が目覚しい複素ランジュバン法を用いて、この難問に挑戦している。当初ドリフト項の特異点の問題を回避するため、ゲージ・クーリングという手法を用いる計画だったが、この手法だけでは問題が解決できないことが明らかになった。そこで我々は、ディラック演算子を変形してから、その際に導入した変形パラメタをゼロに外挿するという手法を用いて計算を進めた。その結果、この問題を回避することに成功し、当初の目標だったSilver Blaze現象の確認を達成できた。 また、上に述べた複素ランジュバン法を、もう一つの方法であるレフシェッツ・シンブル法と組み合わせた方法を考案できたことは、予定外の進展であった。 以上のことから、当初の計画以上に進展していると言ってよい。
|
Strategy for Future Research Activity |
格子サイズを2倍、4倍にした計算を実行し、有限密度における相構造を具体的に明らかにしていくというのが、今後の課題である。既にそのような計算を実行するための並列コードは完成しており、それを用いて研究をさらに発展させていく。
|