2018 Fiscal Year Annual Research Report
複素ランジュバン法による有限密度QCDの第一原理計算
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16H03988
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
西村 淳 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (90273218)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松古 栄夫 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 計算科学センター, 助教 (10373185)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 格子ゲージ理論 / 量子色力学 / 有限密度系 / 符号問題 / 複素ランジュバン法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は昨年度の計算をL=16, T=32という格子サイズの場合に行い、まず低温領域で核物質が生成している領域を再確認した。具体的には、化学ポテンシャルがある値より大きい領域において、クォーク数密度が一定値をとるという振る舞いを見ることに成功した。さらに化学ポテンシャルを大きくすると、クォーク数密度が急激に増え始めるという振る舞いも確認された。これは核物質相からクォーク物質相への転移が見えていることを示唆する。これらの結果により、有限密度QCDの低温高密度領域に対する新しいアプローチとして、複素ランジュバン法が有用であることが明らかになった。ここでは、staggeredフェルミオンを用いたシミュレーションを行った。このフェルミオンの定式化は連続極限で4フレーバーのクォークに対応するため、現実のQCDの状況とは異なるが、計算コストが低いので、方法論のテストに適している。計算には、スーパーコンピュータ「京」を用いた。 又、同様の方法論を用いて、QCDの相図の研究を有限温度領域でも引き続き行なった。上と同様の計算を、L=24, T=12という格子サイズの場合に行い、化学ポテンシャルを変えながら、有限温度で起こるクォーク・グルーオン・プラズマ相への転移をが確認しようとしたが、閉じ込め相に入る直前で複素ランジュバン法が破綻することが結論づけられた。これは、カイラル対称性が自発的に破れる結果、ディラック演算子の固有値がゼロに近い値をとりうる状況になるためと解釈される。逆に非閉じ込め相では、こうした問題は起こらず、正しい計算ができることを意味する。 これらの計算は、これまでのQCDの第一原理計算では決して調べられなかったパラメタ領域でなされたものである。今後、より現実的な2フレーバーのウィルソン・フェルミオンで同様の計算を行なう準備が整えられたという点において、大きな意義がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
有限密度下における量子色力学の性質を第一原理計算により明らかにすることは、符号問題のため極めて困難であることが知られている。我々は最近進展が目覚しい複素ランジュバン法を用いて、この難問に挑戦している。この方法は一定の適用範囲があり、実際に計算が可能かどうかは、一般にパラメタの値によるが、我々の研究により、かなり広いパラメタ領域において正しい計算が可能であることが初めて確認できた。 一年前の時点では、有限温度領域の計算で相転移の確認ができていないという問題もあったが、平成30年度に行なった研究により、閉じ込め相で起きる問題の理解が進展し、逆に非閉じ込め相では、そうした問題が起きずに正しい計算ができることが示唆された。これは予期せぬ新しい発見であり、プロジェクト全体として、当初の計画以上に進展していると言ってよい。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、低温および高温の領域で、格子サイズをさらに大きくした計算を実行し、4フレーバー・スタッガードフェルミオンの場合のQCDの相構造を確立する。 さらに次のステップとして、より現実的な2フレーバーのウィルソン・フェルミオンで同様の計算を行なうことにより、本研究をさらに発展させていく。 平成31年度は最終年度となるので、研究成果をまとめた上で、次の研究プロジェクトの計画を立案する。
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