2017 Fiscal Year Annual Research Report
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16H04009
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松田 康弘 東京大学, 物性研究所, 准教授 (10292757)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 達生 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (80205468)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | スピン格子結合 / 磁場誘起相転移 / 磁歪 / X線回折 / 固体酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度の研究計画に沿って、実績の概要を以下に示す。 (1)固体酸素の窒素置換効果と磁歪測定: 高速歪み測定が可能なファイバーブラッググレーティング(FBG)を用いて精密に固体酸素の磁歪を測定することに成功した。それにより従来報告のない特徴的な負の磁歪をα相に発見した。酸素分子は反強磁性的に結合しているために交換磁歪機構からは正の磁歪のみが期待されるため、負の磁歪の発現機構は興味深く、その解明が今後必要である。α相から温度を上げて現れるβ相では磁歪は正であることも確かめられた。さらに、125 TまでのFBG実験からαーθ相転移に起因する構造変化がはじめて検出された。これは、構造相転移を直接示す初めての成果である。窒素置換系では結晶性の窒素濃度依存性について検討した。 (2)固体酸素のX線回折: 24 Tまでのパルス強磁場中におけるα酸素のX線回折実験を行った。従来の報告が7.5 Tまでであることから3倍以上に磁場範囲を拡張した。FBG実験で確かめられた磁歪と整合する歪みが観測されたが、その大きさは過去の巨大磁歪の報告と比べて一桁小さい。定常磁場中でのX線回折実験も5 Tまで行い、今回の実験結果が信頼性の高いものであることを確かめた。 (3)有機分子磁性体BIP-TENOの精密温度制御下での磁気特性: BIP-TENOの磁化過程における精密な温度依存性を調べたが、高速磁場掃引でのみ観測される特徴的な磁化過程は温度の影響を大きく受けないことが明らかとなった。そのため、スピン系の温度が極端に下がったために新たな磁気構造が安定化するという機構は実験結果と整合しないことが分かった。磁歪測定からはスピンギャップの閉じる磁場以上で顕著な結晶の収縮がはじめて観測できた。これより、スピン格子結合が特異な磁化過程の理解に最も重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・酸素のX線回折実験、及びファイバーブラッググレーティングによる磁歪実験をパルス強磁場で行う事に成功し、X線回折については従来の磁場範囲を3倍以上拡張した。その結果、過去の巨大磁歪の報告と整合しない新たな振る舞いを観測した。α酸素では低磁場領域で非自明な負の磁歪を示すことが明らかとなり、これは固体酸素のスピン格子結合の理解に重要な現象である。また、FBG実験では125 Tまでの磁場中ではじめてθ酸素への構造変化を直接的に捉えることに成功した。 ・有機分子磁性体に関してもBIP-TENOではじめて強いスピン格子結合を示す磁歪の観測を強磁場中で発見し、分子性固体特有の分子立体配置の磁場による変化が生じていると期待できる。また、S=1のBIP-TENOと類縁物質であるS=1/2のBIPーBNOでは、スピンラダーとしての期待される磁化過程が起こることを確かめ、BIP-TENOが特異であることを間接的に検証できた。 以上の成果は本研究の研究目的に沿うものであり、研究を順調に遂行していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である本年度はこれまでの進捗状況を踏まえて以下の推進方法を計画する。 (1)酸素/窒素混合系の磁場誘起相転移の解明: FBGによる磁歪測定と磁化測定から酸素/窒素混合系の磁場誘起相転移の窒素濃度依存性を明らかにする。磁場誘起αーθ相転移の転移磁場及び転移の幅が窒素濃度で制御できる可能性が高く、相転移機構の解明に大きく寄与すると考えている。 (2)磁歪測定による酸素結晶の制御技術開発とαーθ相転移の解明: 磁歪測定を結晶の異方性の検証に用いて、低温磁場中での固体酸素のドメイン整列及び単結晶化に挑戦する。これは当初の計画にはない発展的試みであるが、単結晶の生成に成功すればこれまで測定の質が著しく向上すると期待されるため、その意義は高い。単結晶成長の技術を確立し、磁化及び磁歪測定からαーθ相転移を解明する。 (3)BIP-TENOのスピン格子分離現象の解明: 昨年度明らかになった強いスピン格子結合から、高速磁場中での特徴的な磁化過程は格子とスピンの分離によって実現している可能性が高いことが明らかになっている。本年度は磁場掃引速度を制御する技術を開発してスピン格子分離が起こる時間スケールを決定する。これは分子のダイナミクスと直接関連するため極めて重要である。
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