2018 Fiscal Year Annual Research Report
還流系を用いた中立的生態系実験の実現とその統計力学的解析
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16H04033
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
竹内 一将 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50622304)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
若本 祐一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (30517884)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 生物物理学 / 集団遺伝学 / 生態系 / 非平衡統計力学 / 微小流体デバイス |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は、主に「広域化した還流系における二集団競合過程の観察」「高密度菌集団の垂直化の発見」「異種菌集団の観察」「チャネル内の菌集団競合過程の数値計算」を行った。 広域化した還流系における二集団競合過程の観察:昨年度開発した、広域化した還流系を用いて、菌集団の観察を実施した。その際、新たに用いた多孔質膜により蛍光バックグラウンドが上がってしまったため、より高強度の蛍光タンパク質を多く産生する株を形質転換によって作製した。結果、小規模な系で観察していた二集団競合ダイナミクス、特に座屈等によるフラクタルパターンの出現が大規模系でも確認でき、柱など障害物に影響されない観察が実現した。 高密度菌集団の垂直化の発見:非運動性の株をドレイン付の還流系で培養すると、高密度状態では、菌が観察系に対して垂直方向に向きを変える現象を見出した。同様の結果は、菌同士が数珠状に連なる性質のあるコレラ菌では報告があるが、大腸菌では未報告である。垂直化が起こる領域は、基板コーティングなどの実験条件によって異なることもわかり、生態系ダイナミクスへの影響を調査中である。 異種菌集団の観察:運動性菌株と非運動性菌株を混合して培養したところ、非運動性の菌集団が運動性の菌を取り囲むような形でクラスター化が発生するなど、同種の菌集団とは異なるダイナミクスを見出した。 チャネル内の菌集団競合過程の数値計算:昨年度に考案した、チャネル内の菌集団競合過程のモデルに、遺伝子変異と異種間攻撃の要素を新たに加え、数値計算を行った。結果、変異や攻撃の頻度をパラメータにして、二集団が共存する相と、一方が優勢になる相の相転移が生じることが明らかになった。昨年度見出したvoterモデルの挙動は、相転移点直上のダイナミクスに対応する。以上の結果は、モデルの理論解析によっても説明できた。以上の成果は論文にまとめ、出版した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、計画通り、広域化した還流系における観察条件の検討と改善を行い、特に蛍光強度を高めた菌株作製などによって、菌集団観察を実現することができた。これにより、柱など障害物に影響されない生態系ダイナミクスの観察が実施できるようになった。 高密度菌集団の観察に関しては、高密度化に伴い、菌が観察系に対して垂直方向に向きを変える「垂直化」が起こることを見出した。また、異種菌集団の観察も実施し、興味深い現象を観察した。これらの観察には、年度初めの計画時には想定していなかった結果もあったため、当初の実施計画を一部変更し、その検証等に時間を費やすこととした。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、広域化したマイクロ還流系においても、従来のマイクロ還流系と類似の二集団競合ダイナミクスが起こることが確認できた。また、ドレインを設けることで、菌密度を定常に保った観察も行うことができた。ただし、菌の発する蛍光強度を高める必要が生じたため、高強度の蛍光タンパク質を多く産生する株を形質転換によって作製したが、その培養条件確立が十分ではない。また、ドレイン付きの系では、排出された菌を効率よく取り除く一方で観察領域内の生態系ダイナミクスには影響を及ぼさないように、流量や基板設計を改善する必要がある。今後、これらの課題に取り組み、ドレインの有無や競合させる菌株の選択など、様々な条件で安定的に生態系ダイナミクスの観察を実施して、結果を解析する。観察結果は、本年度実施した中立的二集団の競合ダイナミクス数値計算の結果をはじめ、関連理論研究とも比較し、フラクタル次元やクラスター分布の時間発展や、スケーリング則など、統計物理学的な特徴を抽出する。得られた結果を再現できるような機構を考案し、必要に応じて数値計算などの手法も活用して実験結果の理解を目指す。 また、今年度の研究により、本課題で扱うような高密度な菌集団では、高密度化に伴って菌体が基板に対し垂直に向きを変える、垂直化と呼ぶ現象が起こることを見出した。今後は、それが生態系ダイナミクスに及ぼす影響を評価する。さらに、本年度は運動性株・非運動性株の異種二集団の競合過程を観察し、巨大なクラスター形成など顕著な違いが出現することを発見した。今後は、こうした異種二集団の生態系ダイナミクスについても実験を継続し、中立的二集団との差異の理解を深める。以上を総括して、本課題で取り組んできた、還流系を用いた中立的生態系実験の実現とその統計力学的解析の結果をまとめ、論文や学会発表などの成果普及に努める。
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Research Products
(16 results)