2017 Fiscal Year Annual Research Report
日本下のプレート沈み込みとマントルウェッジの温度場・水輸送・異方性のダイナミクス
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16H04040
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉岡 祥一 神戸大学, 都市安全研究センター, 教授 (20222391)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中島 淳一 東京工業大学, 理学院, 教授 (30361067)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | マントルウェッジ / 温度場 / 水輸送 / 異方性 / ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
Ohmori (2009)の含水MORBの相図を、3次元熱対流海洋プレート沈み込みモデルに取り込み、相転移に伴う脱水量の計算を行った。主に海洋性地殻からの脱水過程を研究対象とし、スラブとマントルウェッジもハルツバージャイトの相図(Hacker, 2003)を用いてモデル化した。両相図にはソリダスも示されており、メルト生成条件として用い、メルトと水の分布も区別した。また、2相流理論を取り入れたコード開発を行った。水の3次元的な移動経路を追跡するため、CIP法による移流方程式ソルバーを導入した。また、研究協力者のManea氏らが開発したトレーサーを本計算コードに導入し、流跡線の計算を可能にすることで、他の物質の移動も追跡した。また、粘性率の温度・圧力・応力・歪速度依存性が水の循環やマントルウェッジ内の流れに及ぼす影響も評価した。 今年度は中部日本に沈み込むフィリピン海スラブで孤立して発生する地震の解析を行った。その結果、地震活動は深さ方向に約50 kmの幅を持っており、多くはスラブ内で発生しているものの、一部の地震はマントルウェッジでも発生していることが明らかになった。この地震活動の周囲約50 km以内のスラブおよびマントルウェッジでは地震が発生していない。このことは孤立した地震活動の領域でのみ、地震を発生させる条件が整っていると考えられる。スラブ内の応力状態は大きく変化しないことから、孤立した地震活動の要因は断層強度の低下であると推測される。つまり、スラブ内には水が存在し、その一部がマントルウェッジに上昇していることを示唆している。マントルウェッジでの水輸送過程を理解するための重要な観測結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように研究はおおむね順調に進んでおり、これは計画的に研究を進めてきたことによる。 スラブ内の含水鉱物の脱水反応により生じた水はマントルウェッジ供給されると考えられているが、背弧側のマントルウェッジでは地震が発生しないため、水の供給過程を地震学的に捉えるのは容易ではない。しかし、中日本のフィリピン海スラブ直上では、数は少ないながらも、深さ50-60 kmのマントルウェッジで地震が発生していることが明らかになった。この結果はスラブからマントルウェッジに確かに水が供給されていることを強く示唆する成果である。今年度解析を予定していたVp/Vs構造の推定に関しては予備解析を進めている最中である。
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Strategy for Future Research Activity |
Hi-netのボアホール、ヒートプローブ、ボアホールの地殻熱流量データを拘束条件として、海溝・トラフ軸から背弧までのプレートの沈み込みに伴う温度分布を10km程度の高解像度で推定する。沈み込む海洋プレートの年齢、沈み込み速度、プレートの3次元形状を与え、プレートが沈み込んでからの経過時間・熱拡散率の空間分布・ポテンシャル温度・プレート境界での間隙水圧比・蛇紋岩化に伴うマントルウェッジとスラブ間の粘性デカップリング~カップリングの遷移域の深さなどの不確定要素に対してグリッドサーチを行い、各パラメターが取りうる値を絞り込む。その後、Ji and Yoshioka (2015)の3次元モデルを1)千島・日本海溝の会合部で太平洋プレートが屈曲している東北日本に、また、H28年度に開発した2つの任意形状の海洋プレートの同時沈み込みと、プレート形状の時間変化が扱える3次元モデルを、それぞれ、2)フィリピン海・太平洋の2つの海洋プレートが沈み込む関東地方と、3)かつて大規模な時計回りの回転を起こし、現在、複雑な3次元形状を有するプレート・海盆とかつての海嶺が斜め沈み込みを起こしている西南日本に適用し、3次元的な温度・流れ分布、及び上記1の3次元的な水輸送の数値計算を行い、これら3地域の特徴を明らかにする。 東北地方南部から中部日本におけるマントルウェッジの三次元地震波減衰構造を推定する。地震波減衰は地震波速度とは独立した物理量であり、水の存在に敏感であることが知られている。そのため、詳細な地震波減衰構造を調べることは、スラブからの水の脱水過程とマントルウェッジにおける水の分布に制約を与えることができると考えられる。また、地殻内への水の供給形態の解明を目指して、火山地域・非火山地域のモホ面近傍で発生している深部低周波地震の解析を行う。そこではP波、S波の振幅を用いて、非ダブルカップル成分の抽出を試みる。
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