2016 Fiscal Year Annual Research Report
隕石の重元素安定同位体異常からひもとく惑星系の起源
Project/Area Number |
16H04081
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
横山 哲也 東京工業大学, 理学院, 准教授 (00467028)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平田 岳史 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (10251612)
辻本 拓司 国立天文台, 光赤外研究部, 助教 (10270456)
中本 泰史 東京工業大学, 理学院, 教授 (60261757)
奥住 聡 東京工業大学, 理学院, 准教授 (60704533)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 同位体異常 / 隕石 / 小惑星帯 / 惑星形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
分析班は従来ほとんど分析が行われてこなかった非炭素質隕石(NC:普通コンドライト・Rコンドライト・鉄隕石)を対象に、TIMSによるMo同位体測定とデータ解析を重点的に行った。その結果、非炭素質隕石はε95Mo-ε94Mo図上で原点を通る直線トレンドを形成し、炭素質コンドライト(CC)はNCと平行な別の直線トレンドを形成することが分かった。これは初期太陽系において小惑星帯内縁部と外縁部にMo同位体組成の異なるリザバーが2種類存在することを意味する。また、CCはNCよりε95Moに富むことから、小惑星帯外縁部は超新星物質の影響をより強く受けていることが考えられる。NC・CCリザバー間における物質混合が不完全であったことは、両リザバー形成時、リザバー間にはすでに木星が形成されていた可能性を示唆する。
起源班は太陽系のr-核種の起源について、考察を行った。同位体異常の程度を定量化するためr-process enrichment factor(ηr)を定義し、原子番号(Z)と50%凝縮温度(T50%)の関数として元素ごとにプロットした。その結果、ηrはZr(Z=40)で最大となった後、Zの増加とともに低下し、Sm(Z=62)以降はほぼゼロとなった。このことは、Z>62の同位体が太陽系内で均質に分布していること、及び、Z<62に見られる同位体異常の原因となるr-核種に富む超新星粒子は、Z>62の同位体を含んでいないことを意味する。このことから、Z=62より重い元素のr-核種は、超新星ではなく、より稀なイベントである中性子星合体によって作られた可能性が高いことが判明した。
物理班は分子雲コアの降着を考慮した円盤形成の数値シミュレーションを行い、初期太陽系が54Crに関してどの程度同位体的に均質化したかを見積もった。その結果、分子雲コアの初期角速度と原始太陽系星雲内の年生の強さがともに比較的小さい場合、同位体の均質化が生じやすいことが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分析班の成果は申請書に書かれた計画とは少々異なるものの、OCとCC間にMo同位体異常の二分性が存在するという新たな発見であり、十分評価できる。従来見つかっていた同位体異常の二分性は、Cr・Ti・O・Srの同位体異常を異元素間でプロットすることで確認されていた。今回の発見はMoという単一元素内での同位体二分性であり、そのことから、二分性の原因として超新星粒子の流入が強く示唆された。このことは1年目の成果として十分なものといえる。また、起源班・物理班に関しては、ほぼ申請書に書かれた通りの計画を進めることができた。全体として、おおむね順調に経過していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
分析班は隕石の同位体測定を続行する。H28年度の結果から、非炭素質隕石(NC)と炭素質コンドライト(CC)間に存在する同位体異常の二分性は極めて重要であることが判明した。また予察的ではあるが、CAIおよびコンドリュールの形成プロセスがNCおよびCCの同位体二分性に大きな影響を与えている可能性が浮上した。今年度は、NCとCCから未分析の隕石を選択し、超高精度Sr, Mo, Nd同位体測定を行う。また、CAIとコンドリュールのSr, Mo, Nd分析にも着手する。
起源班は引き続き太陽系のr-核種の起源について、研究を進める。Z>62の同位体は均質化している可能性が高いが、T50%との関連について、考察が不十分である。そのため、分析班と協力し、隕石のYb同位体異常の測定に着手する。YbはZ=70の重元素であるが、T50%が1487 Kと周辺の重希土類元素より200 Kほど低いため、超新星の影響以外に、太陽系内熱プロセスの影響を受けやすい。そのため、Yb同位体異常の分析により、同位体異常を支配する粒子の起源にさらなる制約を与えることができる。
物理班は超新星物質流入の同位体異常への影響を理論的に考察する。流入物質の空間的不均質だけでなく、流入時刻と各微惑星の形成時刻との前後関係が重要になると予想している。この点をふまえ、微粒子流入と微惑星形成を時間空間的に非一様な設定のもとで理論計算し、太陽系の同位体異常を説明しうる物質流入時刻および微惑星形成過程を特定する。
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