2017 Fiscal Year Annual Research Report
複数の反応サイトを有するナノ・バイオ分子の反応動力学と原子分割エネルギー描像
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16H04091
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
河野 裕彦 東北大学, 理学研究科, 教授 (70178226)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小関 史朗 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80252328)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | クーロン爆発 / DNA鎖切断 / 多電子ダイナミクス / 光駆動分子モーター / 原子分割エネルギー / 自然軌道 / ヒドロキシルラジカル / 分子イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
多電子の運動を定量化する多配置時間依存Hartree-Fock法を開発し,時間に依存する分子軌道(自然軌道)による一体描像の確立を目指してきた。自然軌道が従う時間依存有効一体ポテンシャルを導出し,CO分子では,近赤外レーザー電場によってC原子方向に電子に力がかかったときにだけ,C原子側に電子分布が偏っているHOMO軌道からトンネルイオン化が進むことがわかった。異方的な電子の動きが有効ポテンシャルによって理解できることを示した。 異方的な分子の運動としては,空間的に非対称な2色レーザーを用いるとCO2分子の等価な2つのC-O結合の一方を選択的に解離させることができることを理論的に示してきたが,この選択的結合解裂を名古屋大学の菱川グループと共同で実験的に証明した。また,高強度近赤外レーザーパルスによってC60が扁長と扁平構造を交互に取るhg(1)振動モードが励起されることも,日米独の国際チームによって理論的・実験的に明らかにした。 励起状態動力学に関しては,高速の非断熱動力学法を開発した。この方法では,非断熱遷移の結合行列を計算する必要は無く,電子状態計算から得られる断熱ポテンシャルの古典軌道上の時間微分から透熱ポテンシャルの傾きを推定すればよい。放射線や光によって生成した水分子多量体カチオンに適用し,2 eVより高い運動エネルギーをもつOHラジカルが発生することを明らかにした。また,DNA のまわりで高エネルギーのOHラジカルが発生すると容易にDNA鎖に接近し,DNAの糖から水素を引き抜き,リン酸基との間の結合を切断することを明らかにした。 X線自由電子レーザー(XFEL)によるクーロン爆発をシミュレーションするためのイオン化過程をモデル化したDFTB動力学計算法の改良も進めた。CH2I2のクーロン爆発の実験結果(解離イオンの運動エネルギー分布など)を再現することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
H29年度は実験グループとの共同研究で大きな成果が上がった。まず,空間的に非対称な2色レーザーを用いるとCO2分子の等価な2つのC-O結合の一方を選択的に解離させることができることを理論的に示してきたが,この選択的C-O結合解裂を名古屋大学菱川明栄教授グループと共同で実験的に証明することができた(Phys. Chem. Chem. Phys.掲載)。また,高強度近赤外レーザーパルスによってC60が扁長と扁平構造を交互にとるhg(1)振動モードが励起されることを計算で示してきたが,日米独のチームによって実験的にも明らかにした(Phys. Rev. Lett.投稿)。イオン化電子がもとの分子と再衝突する際の散乱を利用した全く新しい電子回折法をつかったもので,我々の理論計算との照合によって,この方法が分子の構造変化を追跡する強力な実験法であることが証明された。 開発した高速の非断熱動力学法では,非断熱遷移の結合行列を計算する必要が無く,電子状態計算から得られる断熱ポテンシャルの古典軌道上の時間微分から透熱ポテンシャルの傾きを推定し,非断熱遷移確率のZhu-Nakamura公式に代入する。凝縮系や大きな光駆動分子モーターなど大きな系への適用が可能な高速計算法であり,既存の方法と比較しても同等以上の精度を有している。本手法を使って,放射線や光によって生成した水分子多量体カチオンからのOHラジカル発生の機構も調べ,高エネルギーのOHラジカルだけが水に囲まれたDNAに接近し,2本鎖切断を引き起こすことを明らかにした。これは,Mathurらの最新の実験結果(Phys. Rev. Lett. 112, 138105 (2014))とも一致している。 以上,本年度は,動力学理論が実験結果を説明するだけでなく,その予測が実験によって実現されるという新たなステージに入ることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は,DNA鎖切断を引き起こす水からのOHラジカルの発生や光駆動分子モーターの回転など励起状態が関与するダイナミクスを中心に研究を進める。開発した非断熱遷移を効率よく高速で計算する方法を適用する。大きな光駆動分子モーターでも,量子収率やトランスーシスの回転の効率を求め,より高速の分子モーターの設計につなげる。原子分割エネルギーの概念を励起状態が関与する反発交差や円錐交差における非断熱ダイナミクスにも適用し,各原子の分割エネルギーの変化がそれらのダイナミクスとどのように相関するか明らかにする。 DNAの鎖切断には,DFTB法やDFT法を使い,ピコ秒からナノ秒の反応動力学シミュレーションを実行する。OHラジカルや熱,光がどのように鎖切断を引き起こすか,エネルギー・電子移動の観点から明らかにする。放射線や光による高エネルギーOHラジカルの発生機構と拡散過程を調べ,それらの濃度と2本鎖切断との関係の定量化を目指す。また,DNAの周りに水などの溶媒やカウンターカチオンの鎖切断に及ぼす影響も明らかにする。 C60 (OH)24のナノカーボンへの転換反応においは,多数のOH基とC60フラーレン骨格の間のエネルギー交換によってC60骨格の解裂が促進されることを明らかにしてきたが,本年度はTD-DFTB法を使って近赤光による励起過程を動力学シミュレーションに含め,実際のエネルギーの流れを調べる。ナノ・バイオ分子のクーロン爆発に関しては,イオン化過程をモデル化し,DFTB法と融合した動力学計算法の精密化を進め,重原子含有分子のXFELによるクーロン爆発の実験結果の再現性を高める。これをもとに,実験で得られる解離イオンの運動エネルギー分布や2体角度相関から分子の構造を再構築する反応イメージング法を理論的に確立する。
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[Journal Article] Ultrafast Coulomb explosion of a diiodomethane molecule induced by an X-ray free-electron laser pulse2017
Author(s)
T.Takanashi,K.Nakamura,E.Kukk,K.Motomura,H.Fukuzawa,K.Nagaya,S.Wada,Y.Kumagai,D.Iablonskyi,Y.Ito,Y.Sakakibara,D.You,T.Nishiyama,K.Asa,Y.Sato,T.Umemoto,K.Kariyazono,K.Ochiai,M.Kanno,K.Yamazaki,K.Kooser,C.Nicolas,C.Miron,G.Kastirke,X.J.Liu,A.Rudenko,S.Owada,T.Katayama,T.Togashi,K.Tono,M.Yabashi,H.Kono,K.Ueda
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Journal Title
Phys. Chem. Chem. Phys.
Volume: 19
Pages: 19707~19721
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] XFEL 誘起超高速ダイナミクスの実験・理論展開2017
Author(s)
河野 裕彦, 中村 公亮, 落合 宏平, 岡田 朝彦, 及川 啓太, 菱沼 直樹, 花崎 浩太, 菅野 学, 高梨 司, 永谷 清信, 上田 潔
Organizer
第20回理論化学討論会
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[Presentation] Development of a reaction dynamics model for the Coulomb explosion of I-containing molecules induced by intense XFELs2017
Author(s)
K. Ochiai, K. Nakamura, Y. Takahashi, M. Kanno, K. Yamazaki, T. Takanashi, H. Fukuzawa, K. Tono, K. Nagaya, K. Ueda, H. Kono
Organizer
33rd Symposium on Chemical Kinetics and Dynamics
Int'l Joint Research
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