2016 Fiscal Year Annual Research Report
キラルイオン対の構造制御を基盤とした協奏触媒系の開発
Project/Area Number |
16H04147
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
浦口 大輔 名古屋大学, 工学研究科, 准教授 (70426328)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 有機分子触媒 / イオン対 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機合成化学におけるイオン性化学種が関わる分子変換の重要性を鑑み、本研究では反応性イオン種の自在制御を実現するための「真のキラルイオン対触媒化学」を攻究した。具体的には「協奏」をキーワードとし、①キラルカチオン②キラルアニオン③キラル分子内イオン対に加えて、④キラル分子間イオン対触媒に関する研究に取り組んだ。 ①キラルカチオンを利用した立体制御を伴う反応として、ジアステレオ分岐型反応系の実現を念頭にプロキラルな不飽和カルボニル化合物へのプロキラルエノラートの付加を取り上げた。求電子種と求核種の独立制御によるジアステレオマー作り分けの可能性を探る中で、キラルなカチオン種が両活性種を同時に制御し触媒構造のわずかな修飾によりジアステレオ選択性が反転する現象を発見した。また、計算化学的な解析を併用することで用いたカチオン性触媒のユニークな分子構造が、単独触媒によるジアステレオ分岐型反応実現の鍵であることを明らかにした。 ②いくつかの独自のキラルアニオンの合成と立体制御能の評価を行い、モデル反応において中程度から高いエナンチオ選択性を示す構造を見出した。また、それぞれのアニオンに合わせたカチオン交換プロセスの最適化に取り組み、プロトン・金属イオン・金属錯体を対イオンとするキラルイオン対を定量的に調整できる手順を確立した。しかし、アニオンの構造によってイオン交換条件の微調整が求められ、今後も継続した検討が必要であることが示唆された。 ③キラル分子内イオン対型触媒を用いて、芳香環縮環型のラクタム類の直接的修飾に成功した。また、カチオン部に電子受容能を付与した分子を生み出し、プロトン共役電子移動触媒としての機能をもつことを明らかにした。本分子は、外部からのエネルギーの供給を必要とせずにラジカル反応を促進し、酸素分子を唯一の駆動力とする点で、従来型の金属系触媒とは一線を画す能力を備えている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キラルカチオンおよびキラルアニオンを用いた研究では、それぞれのイオンの性質の理解を進めるにとどまり、複数の触媒の協奏効果を実証するまでには至らなかった。しかし、今後の研究の基盤となる知見は着実に得られており、概ね予定通りの進展を見せたといえる。一方、分子内イオン対型触媒を用いた化学としては、従来までの研究の流れに沿った成果が順調に得られたことに加え、全く新しい触媒機能を見出すに至っている。今回得られた結果は、今後の研究展開に多大な影響を与えるものであり、イオン対の協奏が生み出す化学の力を実証するものと位置付けている。分子間イオン対を触媒とする研究に対しては、触媒の調整法の確立にとどまり、実際の反応における触媒分子の振る舞いを評価するには至らなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
それぞれの研究項目で進捗にばらつきがあるものの、全体としては概ね想定される範囲内の研究の進展が得られたことを踏まえ、基本的には現状の体制を維持したまま進める。複数の触媒分子の協奏に関する研究の遅れを重視し、独自の触媒群と相性の良い既存触媒の選定を端緒とした取り組みも開始したい。分子内イオン対の研究については、今年度に得られた重要な知見を基盤として加速的に研究を行うために、人的資源の拡充も含めて検討したい。
|
Research Products
(19 results)