2017 Fiscal Year Annual Research Report
Dynamic Structural Characterization of Electron Transfer Complex in Respiratory Chain of Mitochondria and Its Electron Transfer Regulation Mechanism
Project/Area Number |
16H04173
|
Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石森 浩一郎 北海道大学, 理学研究院, 教授 (20192487)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
内田 毅 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (30343742)
齋尾 智英 北海道大学, 理学研究院, 助教 (80740802)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | シトクロムc / シトクロムc酸化酵素 / ミトコンドリア呼吸鎖 / ナノディスク / 電子伝達 / 脱水和 / 構造的揺らぎ |
Outline of Annual Research Achievements |
CcO-Cytc電子伝達複合体の構造解析とその電子伝達機構の解析 CcO-Cytc間の電子伝達経路を制御する構造的因子として、CytcのIle81残基からの脱水和に注目し、このIle81をSerに置換した変異体のMD計算を行うことで、このアミノ酸置換によってCcO-Cytc間の蛋白質間電子伝達経路が大きな影響を受けることを見出した。さらに、このIle81からの脱水和がCytcの構造にどのような影響を与えるのかについて、種々の分光学的手法により検討した結果、Ile81からの脱水和により、Cytcの構造におけるヘムの相対的位置に有意な変異が観測され、ヘム側鎖の溶媒への露出面積が増加することが示唆された。このようなヘム側鎖の溶媒への露出は、Cytcのヘム鉄の酸化還元電位を負の方向へシフトさせる要因となり、その結果、CcOへの電子伝達反応を促進すると考えられる。 CcO-Cytc電子伝達複合体の動的解析 これまでの研究からCytcからCcOへの電子伝達反応においては、Cytc構造の抑制された「構造的揺らぎ」が重要であると示唆されてきた。そこで相互作用部位付近に位置し、Cytcにおいてそのヘムとチオエーテル結合を形成することにより蛋白質全体の構造揺らぎを抑制していると想定されていたCys14をAlaに変異させ、このような変異により構造的揺らぎを増大させることで、CcOへの電子伝達活性がどのように変化するのか、構造的及び機能的検討を行った。NMRによる緩和分散解析の結果からは、このCysの変異によるCcOとの相互作用部位周辺での「構造的揺らぎ」の有意な変化は認められず、CcOへの電子伝達活性についても有意な低下は観測されなかった。以上の結果は、Cytcにおける「構造揺らぎ」の抑制は一方のチオエーテル結合だけではなく、ヘムとポリペプチド部分との多数の相互作用に由来していると考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の最終的な目標の一つである①CytcからCcOへの電子伝達経路を同定すること、②これまで熱力学的には示されてきた相互作用部位近傍の疎水性残基からの脱水和について、その構造的意義を明らかにすること、の2点については、平成29年度の成果により、ほぼその解答が得らえれたと考えられる。特に、Ile81からの脱水和が与えるCytc の構造や電子伝達活性への影響については、インパクトファクター5以上の国際的学術論文へ掲載され、期待以上の成果が得られたと考えられ、これらの点においては、当初の予定より早くにその目標が達成できるように進んでいると判断できる。 一方、本研究課題において、もう一つの大きな柱であるナノディスク化については、期待通りに進んでいない面があり、特にウシのCcOのナノディスク化については研究の遂行が遅れている。これは、ある程度当初から予定されたことであり、ウシ由来酵素でナノディスク化が困難な場合には、バクテリアの系に実験を進めることを計画しており、このバクテリア由来については、当初の予定通り、そのナノディスク化自体は再現性良く進められている。ただ、NMR測定などの分光学的測定に必要な精製度の高い均一な試料の必要量を確保するのが依然として困難であり、その点において十分進んでいる状態ではない。また、Cytc-CcO電子伝達複合体の動的特性として重要な「構造的揺らぎ」に関する研究項目については、その抑制の緩和のため、一方のチオエーテル結合を欠損した変異体の作成を試み、構造の大きな不安定化が想定されたものの、NMRによる緩和分散測定まで予定通り測定することができた。しかし、その結果からは「構造的揺らぎ」の変化の有意な抑制は観測されず、当初想定した1本のチオエーテル結合の開裂だけでは大きな「構造揺らぎ」の抑制には至らず、変異部位の再検討が必要である。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成29年度までの大きな問題点としては、やはりナノディスク化であり、分光学的測定に十分な量の試料を確保できる精製方法を確立する点と、ウシ由来CcOのナノディスク再構成化手法を確立する点の2点が挙げられる。前者については、各精製段階での細かな条件検討と繰り返しの精製による試料量の確保で対応するほかに有効な方策はなく、精製段階では、ビーズによる界面活性剤吸着の過程での蛋白質試料の損失が特に大きいので、この操作を中心に改善を行う。また、精製収量については、ナノディスク化酵素の精製の繰り返しによる試料量の蓄積が必要で、その効率化のため、ナノディスク化蛋白質であるMSPの大量精製のためのカラムの大型化などを試みる。ウシ由来CcOのナノディスク再構成化については、そのCcOの膜貫通部分の大きさが、これまで用いてきたナノディスクでは不十分と想定されるため、一部の配列を繰り返して挿入することで直径の大きなナノディスクを形成可能なMSPを用いることを試みる。 Cytcの「構造揺らぎ」に摂動を与えるアミノ酸変異としては、もう一方のチオエーテル結合を形成しているCys17に加えて、ヘム鉄の軸配位子であるMet80にも注目し、ヘム鉄に配位できないAlaへの置換等を実施する。これらの変異でもCytcの「構造的揺らぎ」に摂動を与えられない場合にはこれらの変異を組み合わせた二重変異体等の作成を試みる。 以上のようなこれまでの実験内容に対する対策のほか、最終年度はこれまでの研究成果を取りまとめて、Cytc-CcO間の電子伝達制御機構解明を目指すため、その電子伝達反応の理論的解析にも重点を置いて研究を進める。特にこれまで多くの電子伝達蛋白質の電子伝達経路解析で用いられたBeratanらによるPathway Analysisを超える電子伝達経路決定及び解析の理論的手法の開発を目指す。
|