2017 Fiscal Year Annual Research Report
硬質炭素膜の超高速成膜と超低摩擦の両立に向けた学術基盤の構築
Project/Area Number |
16H04256
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
上坂 裕之 岐阜大学, 工学部, 教授 (90362318)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 貴之 名城大学, 理工学部, 准教授 (10379612)
小田 昭紀 千葉工業大学, 工学部, 教授 (70335090)
村島 基之 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70779389)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 超高速成膜 / シリコン含有ダイヤモンドラークカーボン膜 / 超低摩擦 / トライボロジー / プロズマCVD / スパッタリング / プラズマシミュレ―ション / 表面分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
現時点で超高速成膜が可能な唯一のDLC膜種であるシリコン含有DLC(Si-DLC)膜を対象として研究を進めた.超高速成膜されたSi-DLC膜において、低摩擦~超低摩擦現象を発現する膜とそうならない膜との間にある膜の初期構造やしゅう同時に形成される界面構造の違いを詳細な表面分析(ラマン,XPS,RBS-ERDAなど)により明らかにすることを目指した.特にそのような低摩擦につながる界面構造の理解から、膜の初期構造が満たすべき要件を明らかにすることを目指した.ただし、様々な文献調査やこれまでの経験から、Si-DLC膜による低摩擦現象には摩擦環境中の湿度が大きく影響することが分かってきたため、今後の湿度制御下での精緻な実験のために、10-50%の範囲で湿度を制御しながら摩擦試験を行った.その結果、以下の結論を得た. 1.比較対象としてのa-C:H膜と、3つの異なる成膜条件で作成したa-C:H-Si膜を準備し、摩擦試験を行った.全湿度範囲でa-C:Hのなじみ後の摩擦係数は0.2-0.5程度で湿度とともに上昇した.一方で、a-C:H-Si膜のなじみ後の摩擦係数は0.05-0.12程度で湿度とともに上昇した.全湿度範囲でa-C:H:Siの摩擦係数の方がa-C:hよりも低く、湿度でへの依存性も小さかった. 2.相手球への移着物のラマン分光分析(532nm)の結果、炭素構造由来の散乱ピークのシフト範囲(1300-1600 cm-1)において、a-C:Hでは湿度によらず信号が検出されなかった.一方でa-C:H:Siでは、湿度によらず蛍光発光によると思われるシグナルが検出された.広シフト範囲での再分析の結果、2800cm-1付近にピークを有する蛍光であることが分かった. 3.さらにa-C:H:Siでは、摩擦係数が0.05程度以下になる場合においてのみ、炭素構造由来の散乱ピークが蛍光と併せて検出された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度に、摩擦係数が0.01未満の超低摩擦を発現するSi-DLC膜を探索・発見するように計画したが,摩擦係数が0.025を下回る実験結果は得られていない.その点が現時点で予定外のことである.しかしながら、特に異なる湿度での摩擦実験を行ったことにより、Si-DLC膜の移着物の化学的構造が,低摩擦発現に伴って前記のような特徴的な構造になることを見出すことが出来た.またそのような移着物の構造と膜の初期構造との関係も明らかになりつつある.このまま進展させれば、今後超低摩擦化のための成膜指針が早急に確立でき,最終的には超高速成膜と超低摩擦発現を両立するSi-DLC膜の実現につながると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は,現時点で超高速成膜が可能な唯一のDLC膜種であるシリコン含有DLC(Si-DLC)膜を対象として行う以外にはない.当初、摩擦係数が0.01未満の超低摩擦を発現するSi-DLC膜を探索・発見するように計画したが,摩擦係数が0.025を下回る実験結果は得られていない.そこで昨年度、湿度環境などを制御することで得られる0.05-0.5程度の広範な摩擦係数範囲で移着物の構造分析を行うことなど、しゅう動界面に対する詳細な分析により、膜の初期構造における低摩擦化のための必要要件を見出すように方針を転換した.現時点ではこのアプローチが功を奏しているため、次年度は、DLC側しゅう動界面の構造分析、湿度範囲の拡張(特に低湿度側)、さらなる移着物分析(XPS結合解析、顕微FTIR、蛍光顕微鏡)などによりさらにしゅう動界面構造の理解をすすめ、その結果をもとに超高速成膜と超低摩擦発現を両立するSi-DLC膜の実現を目指す.
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