2016 Fiscal Year Annual Research Report
自然災害リスク認知パラドックスの解消と地域災害リスクマネジメントシステムの構築
Project/Area Number |
16H04429
|
Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
柿本 竜治 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 教授 (00253716)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤見 俊夫 熊本大学, 大学院先端科学研究部(工), 准教授 (40423024)
吉田 護 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (60539550)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 自然災害 / リスク認知 / パラドックス / 防護動機理論 / 避難行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,日本国内を対象とした既往研究の中に見られる自然災害リスク認知や減災意識と防護行動との乖離がある事例を抽出し,事例を通じて,自然災害リスク認知のパラドックスの存在を確認した.その上で,本研究では防護動機理論に基づいて,個人の減災行動を説明するための基本的な枠組みを構築し,既往研究から減災行動や減災行動意図を促進させる要因を抽出した. 阿蘇市および南阿蘇村における予防的避難の取り組みを事例に,防護動機理論に則った枠組みで,自然災害リスク認知と避難意図,避難行動との乖離および避難意図と避難行動との乖離の要因を探った.防護動機を形成するとされる要因と避難意図,避難行動の分析から次の関係を示した.「被害想定の深刻さ」が高い,「災害の危険性」を強く感じるからといって,避難意図が高くなったり,実際に避難するとは限らないことが確認された.また,避難を経験しているからといって避難するとは限らず,災害に対して危険な区域に居住していても大半の住民は避難していない.このように脅威評価の高い,もしくは,高くなるような人でも,避難意図が低く,避難行動を取らない人が存在することを明らかにした. 防護動機理論に基づく避難意図モデルから,避難経験があり,脅威評価の要因と対処評価の要因が高くなれば避難が促進される確率が高くなることが示された.したがって,脅威評価に対応する自然災害リスク認知と避難意図が乖離するパラドックスは,対処評価を上げることや避難経験することにより解消が図れる可能性がある.一方,避難行動モデルでは,対処評価が有意でなくなっており,上術の枠組みで避難行動を促進できない可能性が示唆された.また,避難意図と実際の避難行動の乖離は,両者の対処評価の評価構造の差異に原因がありそうであることが分かった.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で,自然災害リスク認知のパラドックスは,「脅威評価」が高くなっても「防護動機」が高まらない状況を既存研究の中で複数事例確認できた.また,実証分析において,脅威評価の高い,もしくは,高くなるような人でも,避難意図が低く,避難行動を取らない人が存在することを明らかにした. 一方で,防護意図や防護行動の促進および阻害要因を抽出する研究は数多く行われているが,抽出された要因が防護意図や防護行動に与える影響は結果が異なっていることも分かった.そこで,同じ質問項目内容のアンケート調査を6カ所で行い,個人の減災行動の地域性や共通性の検証についても実施している. また,2016年4月に熊本地震が発生したのに伴い,被災地域で被災者の避難行動調査も実施している.この調査は,当初の予定にはなかったが,研究の目的は同じであり,本研究の枠組を利用しながら進めている. 以上のように,研究については,当初の初年度に計画どおりに進捗している.一方で,2016年熊本地震の影響で研究成果の発表が遅れた部分はあるが,逆に熊本地震における被災者の避難行動データが入手することが出来た.これらのことから,「おおむね順調に進展している」と判断した.
|
Strategy for Future Research Activity |
自然災害防護行動モデルから得られた自然災害リスク認知パラドックスの発生条件や予防的避難行動の意識構造分析から得られた阻害要因と促進要因を,心理的,物理的,経済的条件や要因等に分類する.そして,各分類の要因ごとに自然災害リスク認知のパラドックスを解消する処方箋を策定し,その実行可能性を検証する.心理的および物理的要因の解消については,モデル地区を選定し,ワークショップや予防的避難の場を活用しながら検証を進める.物理的,経済的要因の内,住民自らの力では解消不能で,行政が介入しても自然災害リスク認知パラドックスの解消が困難な場合には,災害危険区域の設定等を検討する. 地域水害リスクマネジメントシステムを,土砂災害にも適用できるよう拡張する.そのために,雨量等のモニタリング情報から土砂災害の危険度を即時に判定できるように改良する必要がある.土砂災害危険度の判定については,熊本県が開発した土壌雨量指数から土砂災害危険度を判定する防災活動シミュレータに連動させて,雨量のモニタリングから警報発令までのシステムを構築する.
|