2016 Fiscal Year Annual Research Report
アクチニド分子種と生体分子の相互作用に関する計算化学的研究
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16H04635
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
望月 祐志 立教大学, 理学部, 教授 (00434209)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石川 岳志 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医学系), 准教授 (80505909)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 保険物理 / 環境安全 / 生物物理化学 / 量子化学計算 / 分子動力学 / フラグメント分子軌道法 / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題の平成28年度の研究開発の成果を、プログラム開発・整備、応用計算に分けてまとめます。 先ず、プログラム関係です。望月が取り纏め役となって開発しているフラグメント分子軌道(FMO)プログラムABINIT-MPに対して、重原子で重要相対論効果を効果的に扱えるよう、分子研の石村氏が開発しているSMASHから有効ポテンシャル(ECP)のモジュールを移植しました。また、f関数の積分も可能となるよう積分モジュールの移植作業も行いましたが、インターフェースを取るべき箇所が多いために完了までは至りませんでした。また、研究分担者の石川氏とのコラボレーションでは、彼自作のFMOプログラムであるPAICSでのNMR算定機能や3次摂動論(MP3)の実装などについて準備を進めました。 次に、応用計算ですが、DNAにウラニルイオンが結合した系についてAMBERプログラムを使い、ウラニルの力場の吟味を兼ねた分子動力学(MD)シミュレーションの予備的なテストを済ませました。上記の積分モジュールの移植完了によってウランの5f殻が扱えるようになりますので、機をみてDNA系の計算を本格化させます。タンパク質では、生体内でCa(II)の貯蔵/放出に関わるカルモデュリンを選び、ランタニドイオンが結合して変性する機構を調べました。イオンとしては実験データのあるEu(III)としました。各結合系のMD計算を100ns超の時間で行い、軌跡から各々100個の構造サンプルを得て、2次摂動(MP2)レベルでFMO計算を行いました。イオンと結合部位のアミノ酸残基間に関する相互作用解析は済んでおり、研究会などで報告しています。一方、残基間の組合わせは1万を超えるため、MS Azureを使った機械学習を用いた準自動解析を試みました。現在、解析結果を解釈・整理する作業を進めています。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究の進捗状況については、概ね順調であると考えています。自己採点的には80点です。 【概要】のところで記していますように、FMO計算プログラムABINIT-MPの機能強化については、SMASHからのECPのモジュールは導入済み、1,2電子積分の計算モジュールの方は達成度70%というところです。2電子積分の生成はジョブのコストを決するため並列化はマストですが、ABINIT-MPの並列化とSMASHの並列化の「摺り合わせ」に工夫が要るのと、サブルーチン呼出しの場所も多いことから、作業工数が想定よりも多くなってしまいました。ただ、残りの道程は見えていますので、平成29年夏に完了となります。また、石川氏とのPAICS上でのNMR機能の実装を討議していますが、新たにMP3エンジンを共同で実装することになり、アルゴリズムの検討などの準備を進めました。 応用計算についても【概要】に準じて記します。平成28年度の早い段階でAMBERによるMD計算環境は整備し、ルーチン的にジョブを流せるようにしました。これにより、ウラニル+DNA系のテストラン、ならびにカルモデュリン+イオン(Ca(II)とEu(III))系のプロダクションランが円滑に行えました。カルモデュリンの研究は、研究協力者である独の津島氏がリードして進行しています。MD計算の軌跡から、価数がCaの+2からEuの+3となると、カルモデュリンの構造が大きく変形することが明らかになり、四つのイオン結合領域のアミノ酸残基との相互作用もEu(III)の方が強くなることが分かりました。これは、FMO計算によるイオン-残基間の相互作用解析からも裏打ちされています。残基間の相互作用の組合わせ数は1万を超えているので機械学習を援用して整理していますが、タンパク質全体の荷電性残基間の相互作用の変調が示唆されています。
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Strategy for Future Research Activity |
このセクションもプログラム開発と応用計算に分けて記載します。 課題実施者の望月が主開発者・取り纏め役であるABINIT-MPについては、SMASHからのf関数対応積分モジュールの導入も含めて夏には整備作業が一段落し、応用計算のための環境が整います。石川氏が開発しているPAICSについても、MP3モジュールの新規実装の方が早く終わりますので、ベンチマーク的な意味でこれまでなされてこなかった規模の巨大系への適用を考えています。 応用計算では、カルモデュリンのEu(III)イオン結合による変性に関して、FMOの計算結果を機械学習に基づいて解析し、統計的な揺らぎを含めた物理化学的な機構を明らかにする予定です。機械学習はここ数年、特に材料開発や分子設計のツールとして注目されていますが、膨大なシミュレーション結果の整理・解釈に使うことも有用で、望月は2015年から助走的な試みを行ってきました。このカルモデュリンの変性問題は本格的な機械学習利用の一里塚として位置づけていますので、良い成果が出せると思います。なお、7月には仙台で「Actinides 2017」会議があり、カルモデュリンの結果をまとめて発表する予定です。 一方、DNA+ウラニル系についても夏前にMDのプロダクションランを始め、秋からはFMO計算と機械学習による解析にかかる予定です。DNAの場合、塩基部分、糖部分、燐酸部分に分けて相互作用を細かく見ることで、ウラニル結合の影響を明らかに出来ると思います。 研究推進についてです。研究協力者の津島氏が(幸い)6月から半年間ほど東工大に客員教授として滞在されることになりましたので、連携研究者、それに他の研究協力者も交えた打ち合わせ・議論も進みやすくなります。応用計算と外部発表(学会、論文)も推進していきたいと思います。
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