2017 Fiscal Year Annual Research Report
深海底熱水活動域が育む微生物共生系:第三の分子生物学で紐解く生物間相互作用
Project/Area Number |
16H04843
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中川 聡 京都大学, 農学研究科, 准教授 (70435832)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
Keywords | 糖鎖 / 共生 / 深海底熱水活動域 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、深海底熱水活動域において共生関係にある化学合成微生物―大型生物間の相互作用を、世界で初めて第三の分子生物学(=グライコミクス)の観点から解明することにある。具体的には、微生物の『糖鎖と修飾タンパク質の組み合わせが、特定生物間の共生を成立させる分子基盤である』という独自の仮説を検証するため、申請者が深海微生物に見いだしてきた(1)特異糖鎖の生合成経路(糖鎖関連遺伝子の発現様式・破壊実験・酵素化学的性状)、(2)糖鎖修飾タンパク質の機能・修飾様式(糖タンパク質のプロテオーム)を、細胞外共生系および細胞内共生系のそれぞれにおいて解析する。本研究は深海底における異種生物間の分子的コミュニケーション手段の研究を通じて、人類に蔓延する病原性微生物の誕生過程の解明、さらには共生(感染)メカニズムを標的とした革新的治療法の開発に益することを目指している。平成29年度は、深海底熱水活動域に固有の化学合成微生物群が有する糖鎖修飾タンパク質の機能解析を進めた。これまでの研究において性状解析を進めてきた複数の分離株に加え、平成27年度に実施した調査航海において、中部沖縄トラフに位置する深海底熱水活動域(水深は約1000m、噴出熱水の最高温度は311度)から採取した甲殻類(ゴエモンコシオリエビと呼ばれる。腹部剛毛に莫大な付着共生微生物を有する)を主要な解析対象とし、主に高速・高質量分解能の質量分析計を用いて、グライコーム・プロテオーム同時解析を実施した。本解析により網羅的な糖鎖構造解析と糖鎖修飾タンパク質の同定が可能となりつつあるが、糖鎖のシグナルが弱いため分析条件の最適化を進めている。なお、以上に関連する成果の一部は複数の学会や国際誌等で報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
発現量が多いものに限られるが、生態学的に重要かつ産業的利用価値も高いと考えられる糖鎖修飾タンパク質群を同定することに成功している。従来の二次元電気泳動等を用いる方法より高速かつ網羅的なグライコーム・プロテオーム同時解析が可能となりつつあり、これらは今後種々の解析において基盤的役割を果たすと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、前年度までに確立した方法論を、深海底熱水活動域に見られる細胞内共生系に適用する。具体的には、これまで申請者らが実施した調査航海において、インド洋中央海嶺等から採取した巻貝を主要な解析対象(特にアルビンガイと呼ばれる巻貝。本共生系では、既に主要共生微生物系統群に近縁な微生物の分離培養・性状決定・ゲノム解析に成功している)とし、その糖鎖関連遺伝子群の機能解明を目指す。まず細胞内共生微生物(“内部共生モード”)の糖鎖関連遺伝子群を同定するため、メタゲノム解析を実施する(既にプレリミナリーなデータは取得しているが、包括的ではなかった)。同定された糖鎖関連遺伝子群の発現量解析を、RT-qPCR法等で定量する(分布・機能において特徴的な遺伝子に注目する)。特徴的な発現様式(例えば内部共生モードで高発現)を示す遺伝子について、大腸菌等を用いて組換えタンパク質を取得し、糖供与体・糖受容体・生成物を同定する。ここでは特に前年度までに得られている細胞外共生菌および近縁病原菌Campylobacterの膨大な知見(基本的には糖ヌクレオチドUDP-GalNAcを糖供与体とし、特殊なアミノ糖B ac-P,Pの非還元末端にGalNAcが順次転移)および解析手法(反応基質の調整や生成物の同定法)を参考にする。
|
Research Products
(8 results)