2016 Fiscal Year Annual Research Report
果実生理研究のニューフロンティア-低温遭遇によるエチレン非依存成熟誘導機構の解析
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16H04873
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
久保 康隆 岡山大学, 環境生命科学研究科, 教授 (80167387)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
矢野 健太郎 明治大学, 農学部, 専任教授 (00446543)
中野 龍平 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (70294444)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 果実成熟 / 低温誘導 / エチレン / RNAseq |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、果実生理研究のニューフロンティアと期待できる「低温遭遇によるエチレン非依存型成熟誘導機構」を焦点に、次世代シーケンサーによるゲノムワイド遺伝子解析、GC/MASSによる網羅的代謝物解析を駆使する先駆的取り組みである。これまで、果実成熟制御については、植物ホルモンのエチレンを中心に検討され、「エチレン作用阻害剤と低温貯蔵が最も効果的な成熟制御技術」と考えられてきた。ところが、筆者らはキウイフルーツにおいて、病害によるエチレンの影響を除去すると「低温環境で室温下よりも成熟・軟化が早まる」という常識と全く逆の現象を発見した。さらに、RNAseq分析で、低温成熟誘導系はエチレン成熟誘導系と下流の一部遺伝子を共有するが、別個の制御系であることを示し、「低温がエチレン作用とは独立に果実成熟を誘導する」という新たな概念に到達した。これまで見過ごされた「秋の深まりとともにミカンやカキ、リンゴの着色、成熟が進行する」現象を見直し、温帯原産の多年生植物は「秋に果実成熟を完了させ冬に備える」必要から低温に応答して積極的に成熟を誘導すると考えられる。この機構は、園芸において重要な特性である果実成熟の早晩性や貯蔵特性に密接に関与し、その解明は早生・晩生新品種の育種、長期貯蔵技術の開発に直結する。さらに、低温成熟誘導機構は木々の紅葉・老化との共通性も推測され、本研究は広範な植物での各器官の成熟・老化制御機構の統合的理解につながり、園芸生理研究に新展開を切り開くと確信している。本年度は、キウイフルーツだけでなくウンシュウミカン、セイヨウナシについても低温応答性の解析を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
キウイフルーツに関する研究成果を第2回アジア園芸学会、園芸学会秋季大会、園芸学会中四国支部会などで発表するとともに、3編の英文論文にまとめ、学術誌に投稿した。1編は既に掲載され、1編は受理、他の1編は審査中である。また、セイヨウナシ、ウンシュウミカンについてもエチレン処理及び低温処理を行った果実の成分分析及びRNAseq解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
①Real Time PCR法による成熟関連遺伝子発現プロファイルの確認 セイヨウナシ、ウンシュウミカンについてReal-Time PCR法を用いて低温成熟機構の鍵となる代謝関連遺伝子および転写因子の発現プロファイルの確認を行う。前年度に抽出した重要成熟関連遺伝子について、25°C-0°Cの5°C間隔の温度処理サンプルを全て分析し,温度処理効果プロファイルを確認する。さらに,顕著な温度プロファイル変化が得られた品目については、GC/MASSによるより詳細な代謝物分析を行う。 ② 低温誘導成熟遺伝子のプロモーター解析 前年での各種果実でのエチレン誘導性、低温誘導性、両因子感応性成熟関連遺伝子の分類に基づき,公開ゲノムデータ配列を用いてプロモーター配列の解析を行う。最初に,同一果実種内での発現プロファイルが共通した遺伝子のプロモーター領域の比較、次に異種果実種間でのホモローグ遺伝子間の比較を行い,低温誘導に共通するシス因子を抽出する。この際,矢野が開発した独自の高速解析ツールを活用する。また、数種の典型的低温応答特異的遺伝子について、数種果実種のゲノムDNAを抽出し,プロモーター領域のシーケンス解析、確認を行う。
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