2017 Fiscal Year Annual Research Report
Development of effective curative for chronic pain based on the separation of sensory-discriminative and affective-motivational components of pain recognition in animal and human.
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16H05460
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
大澤 匡弘 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 准教授 (80369173)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
粂 和彦 名古屋市立大学, 大学院薬学研究科, 教授 (30251218)
村山 正宜 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダー (30578901)
祖父江 和哉 名古屋市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (90264738)
小山内 実 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (90286419)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 慢性痛 / 痛みの認知機構 / 情動 / 体性感覚 / 島皮質 / AIM-MRI / DREADDs |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、痛みに伴う感覚情報と負の情動反応を処理する脳内神経回路を独立して制御することで、慢性的な痛みの治療が可能になるかを基礎研究と臨床研究の両側面から検証することである。負の情動が強い場合、生体の痛み刺激に対する感受性が高まることはよく知られているが、そのメカニズムは不明である。そこで、慢性的な痛みを与えた場合(神経障害による慢性痛)での脳活動を activation-induced manganese-enhanced magnetic resonance imaging (AIM-MRI)により解析した結果、急性炎症性疼痛とは異なり、情動を司る脳領域が活発に活動していることを明らかにした。次に、神経活動マーカーであるcFosの発現について、神経障害性疼痛モデル動物の脳内で解析を行った結果、島皮質において、発現上昇が認められた。また、神経障害性疼痛モデルで活性化していた島皮質へδオピオイド受容体作動薬を処置すると、痛み閾値の低下が抑制されることも見出した。さらに、負の情動を生み出すと想定される帯状回皮質のノルアドレナリン神経系を選択的に抑制すると、痛み閾値が低下することも確認した。これらのことから、慢性的な痛み刺激の持続により、不快な情動を司る脳回路が活性化されるため、痛み閾値の低下が引き起こされる可能性が示唆された。また、大脳皮質ー大脳皮質間の慢性疼痛による機能修飾では、神経障害性疼痛時において一次体性感覚野(S1)と補足運動野(M2)の間の神経活動の同期活動に変化が見られる傾向が見られた。さらに、臨床研究において、がんと診断された患者の生活の質について調査を行った結果、身体的な痛みを苦痛としている患者は、それほど多くなく、精神的な苦痛を強く感じていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
二年次では、うつ病モデルマウスの痛み閾値の低下のメカニズムを、青斑核から帯状回皮質に投射するノルアドレナリン神経系の機能低下による可能性を示唆することができた。また、AIM-MRIを用いて、神経障害性疼痛モデルマウスの脳活動を、早期および長期の慢性痛持続時において測定し、早期では脳活動の亢進が、長期では脳活動の低下が見られることを明らかにした(論文投稿準備中)。また、神経障害性疼痛モデルマウスの痛み閾値の低下に対して、島皮質や側坐核の神経活動の亢進が関わっている可能性を免疫組織化学および行動学的な手法により示すことができた。さらに、神経活動の可視化を行うため、短い時間窓で神経活動を測定できる極微小蛍光内視鏡やCMOSイメージングセンサーの検討を行うための条件設定が完了し、カルシウム指示蛍光タンパク質であるGCaMP7やGCaMP6を発現するマウスの作製やアデノ随伴ウィルスベクターの作製も完了した大脳皮質ー大脳皮質間の神経障害時での機能的連関の変化については、M2とS1領域の興奮性の相関性が神経障害性疼痛時には変化していることを明らかにできた。この点については、予想よりも実験的な困難さがあるため、進行が遅れているが、条件設定が完了したことから、最終年度での実験の進展が大きく期待できる。一方、臨床研究においては、倫理審査の段階で止まっており、最終年度に集められる患者数なども未知数であることから、慢性疼痛患者の脳活動の測定について、どこまで検討することが出来るか不明な事が多いため、基礎研究の進展と臨床研究の進展を合わせると、おおむね順調に進展していると考えている。また、がん患者のQOLについて、アンケート調査を行った結果をまとめることもでき、予想に反して、身体的苦痛は弱く、精神的苦痛が強いことを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度では、AIM-MRIの解析を行動学的評価と組み合わせて、急性痛による行動変化に関連が強いとされる脳領域を同定する。長期的に痛みを経験したマウスの脳活動をAIM-MRIで観察し、持続する痛み入力の脳活動への影響を経時的に解析する。また、AIM-MRIの検討結果に加え、免疫組織学的およびカルシウムイメージングを行い、痛み刺激がどのようなパターンを介して神経回路を活性化しているのかを明らかにする。さらに、高密度多点電極を用いた網羅的な脳活動の解析を行い、情動性を司る脳活動の変化が、どのような神経メカニズムで一時体性感覚野の機能を調節するのかを検討する。AIM-MRIの解析から明らかになった慢性痛時に活性化している情動性を司る脳領域を特異的に機能調節するため、島皮質や側坐核、下辺縁皮質などの領域にDREADDsを発現させたマウスを用いて、これらの脳領域の興奮や抑制を行うことで、神経障害による慢性痛がどのような影響を受けるのか、また健常マウスの痛み閾値がどのような影響を受けるのかについて検討を行う。うつ病モデルマウスの痛み閾値の変化についても、帯状回皮質のノルアドレナリン神経系の機能低下が、どのような脳回路の機能へ影響をあたえるのか、帯状回皮質から直接の入力がある脊髄後角での神経活動の変化についても電気生理学および行動学的に解析を行う。臨床研究についても、倫理審査のあと、参加者のリクルートを直ちに開始し、基礎研究で明らかになったエビデンスをもとに、脳活動の測定を機能的MRIにより行い、解析を行う。さらに、患者の情動と脳活動、痛み閾値の間の相関性について解析を行う。これらの研究から、痛み刺激や慢性痛時に活性化する脳回路のうち、情動に関わる脳領域を制御した時と、体性感覚に関わる脳領域を制御した時の痛み認知やその遷延化に対する影響を明らかにする。
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Research Products
(15 results)