2016 Fiscal Year Annual Research Report
先住民の植民地経験の語りの両義性ー謝罪と和解をめぐる文化人類学的・学際的研究
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16H05689
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
窪田 幸子 神戸大学, 国際文化学研究科, 教授 (80268507)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | アボリジニ / オーストラリア / 記憶 / 植民地経験 / 語り |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度の本年度は、集中的な聞き取り調査を行なった。夏に2週間、春に1週間、それぞれ休業期間を利用して調査地で住み込み、聞き取り調査をおこなった。そこでは、予定通り、ガンダマ氏のライフヒストリーの語りの骨格を蒐集することとができた。彼女の人生経験についての記憶の語りは、家族、親族、そしてクランの聖地の語りとより合わされ、大変に興味深いものになった。彼女の世代は、まさにアーネムランドにキリスト教ミッションが入り、町が建設されてゆく時代であり、キリスト教ミッションのスタッフに教育を受けて、大人になった。そして、ガンダマ氏は学校教員として働いていた経験を持つ。そのような彼女にとってのミッションの記憶は、大変好ましいものとして語られる。一方で、現在の社会的状況の中での歴史批判も顔をのぞかせていた。このように記憶の語りは時に揺らぎ、変化する。 このように大変興味深い語りが聞かれたが、体調不良のため、ガンダマ氏の集中力が途切れがちで、全体的な完成にはまだ至っていない。ガリウィンク・ミッションの経験と、家族関係、そして神話的つながりが交差するような語は、大変に興味深いものとなっており、今後さらに深めてゆく予定である。 3月にも、追加としてさらにガンダマ氏の話を聞き取った。本人も大変乗り気であり、来年度の追加調査を心待ちにしていくれている。また、ガンダマ氏の家族メンバーからも補足的に話を蒐集した。9月には、キャンベラの先住民研究所において、先住民との和解、謝罪にかかわる資料調査を予定通り行った。これによって、ガンダマ氏の語りについて、ミッション側の記録の歴史的な裏付けも確認した。そして、9月には、ジョーンズ氏が在外研究中であったため、オーストラリアでの研究会を3月に行い、意見を交換した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
順調に聞き取りは進んでいる。被調査者は積極的に協力してくれており、メインのガンダマ氏の体調不良の要素を考えても、順調な成果が上がってきているといえる。研究協力者のゲイル氏の在外調査という要因によって、9月には研究集会を持てなかったが、3月に行うことができ、有益な議論ができている。聞き取りは今後、ほかの家族メンバーに広げることが了解されている。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降、メインのガンダマ氏、その姉妹のディカマロ氏を中心に、彼らのライフヒストリーを構築しつつ、ミッションの時代の記憶を中心に、まず複層的な声を収集してゆく予定である。すでにある程度の記憶の深さ、複層性は認めることができている。それをさらに深めてゆきたい。そして、国際研究集会を持つことで、記憶と語りの複層性、両義性についての論点を少しずつ明確にしてゆく予定である。 あわせて、国際学会での研究発表、国際研究集会での議論を通して、このような問題に興味をもつ研究者を募り、議論のプラットフォームを広げてゆく。
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Research Products
(10 results)