2017 Fiscal Year Annual Research Report
海洋温暖化が東シナ海に進入する南方性水産有用魚類の回遊行動に及ぼす影響評価
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16H05795
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
河邊 玲 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 教授 (80380830)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
米山 和良 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (30550420)
ニシハラ グレゴリーナオキ 長崎大学, 海洋未来イノベーション機構, 准教授 (40508321)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | バイオロギング / 海洋温暖化 / 亜熱帯性回遊魚 / カンパチ / 生息水温範囲 / 移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
(課題1)台湾沿岸域におけるカンパチの行動調査:本年度はカンパチを主対象に絞り標識放流を実施した。平成29年11月に台湾東部沿岸域で捕獲した状態の良い22個体に再捕獲が必要なアーカイバルタグもしくは浮上式アーカイバルタグを取り付けて放流した。平成30年4月上旬までに最長で135日間のファインスケールの深度・温度(水温・腹腔内温度)・位置情報を得ることに成功した。これで前年度調査の再捕分を含めて合計8個体分のデータが解析可能となった。 (課題2)カンパチの漁獲統計の整理:過去の漁獲統計を整理するために情報収集に努めた。 (課題3)行動データの解析:平成30年4月に回収されたタグを除いた7個体分の解析結果を示す。 (滞在深度・経験水温)滞在深度は平均で79±16~106±29(m)、最も浅い深度が28m、最も深い深度が405mであった。一方、経験水温の範囲は12.7~27.4(℃)で15℃程度の範囲におよんだが、カーネル平滑分布の95%信頼区間から上限値と下限値を求めたところ17.4-23.3~20.9-26.9(℃)となり、個体内の水温範囲は6℃程度にとどまった。同海域に生息するシイラより広範囲の水温帯を経験していたが、熱交換係数から推定すると、本種は比較的高い断熱性をもつことにより海面には出現しないものの水温躍層の上部から躍層を越えて底層へ潜行できると考えられた。 (水平移動)82日間の記録期間の個体の水平移動を見ると、放流後に黒潮を越えて東方へ約75 kmほど移動した後、2週間かけて石垣島の周辺まで北上した。それから1ヶ月かけて、東岸沿いを南下し台湾南端へ、さらに台湾海峡まで西進した。最終的に放流地点付近に戻り再捕された。移動範囲は緯度で北緯21.58~24.87度、経度で東経118.5~123.13度の範囲を移動していた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はカンパチを研究対象種に絞ったことが功を奏して、初年度の遅れを取り戻せるのに十分なデータが取得できたことから、順調に進捗していると判断できる。昨年度の調査では渡航した時に現地に次々に台風が襲来して十分な調査時間を確保することができなかった。これをふまえて、今年度は現地での滞在期間を十分に確保したことに加えて、現地の漁業者とも円滑にコミュニケーションを図ったことが功を奏して、予定していた尾数を捕獲できたことにより前年度の遅れを取り戻すに十分な放流個体数を確保できた。一方、本年度の調査で採用したアーカイバルタグからデータを得るためには放流個体を再捕獲してタグを物理的に回収する必要があった。魚を再捕した漁業者が我々へ連絡してくれることが調査成功の鍵となると考えて、現地の研究協力者(台湾水産試験所・江偉全博士)と協同して現地の漁業団体や水産関係機関への周知、さらにはSNSを通じた情報の拡散に精力的に取り組んだ。現在までにのべ24個体の放流魚のうち、8個体の再捕に成功しており回収率は33%におよんだ。これは当初の予想を大きく上回る回収率であり、現地における本研究の調査体制は十分に確立したことを示している。現在、平成30年5月と7月にデータ取得予定の浮上式アーカイバルタグを取り付けた2個体、さらに残り12個体の放流魚の数個体のデータ回収が見込めることから、最終年度には夏季の高水温期を含んだ生息水温範囲が解析可能となる。現在でもすでに数ヶ月間の野外での行動記録に基づいて生息水温範囲の計算を終えており、最終年度に向けて研究目標は十分達成できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(課題2)カンパチの漁獲統計の整理:漁獲統計情報を用いて、カンパチの過去から現在に至るまでの漁期及び漁獲盛期の変遷と、温暖化の進行に伴うこれらの変動性について解析する。 (課題3)行動データ解析:放流魚が新たに再捕されてデータが更新され次第、個体別に生息水温範囲を計算する。さらに魚が経験した毎日の照度記録から水平位置(緯度と経度)を計算し、まず個体別の移動軌跡を解析したのち、全ての結果を統合して分布域を明らかにする。データ解析作業は、河邊が経験水温の解析を、米山が移動軌跡と分布域の解析を担当する。また、経験水温と位置情報を推定する過程で台湾周辺海域の必要な海洋情報が必要となる時は、江が必要な助言と人工衛星からの海面水温情報などの提供を行う。 (課題4)カンパチの将来の分布域予測:課題3で明らかにしたカンパチの経験水温および体温データを用いてカーネル平滑分布の95%信頼区間から最低側と最高側の水温と体温の限界値を求める。次に、IPCCなどで将来の温度予測に用いられている結合気候モデルを用いて30年後、50年後、そして100年後の東シナ海の予測水温値を計算し、水温限界値から分布域を予測する。この解析はニシハラが行う。 (本研究のゴール)平成30年度はIPCCが発表している温暖化シナリオに基づいて、分布域と滞在期間の変化を予測して、当該漁業に及ぼす影響を考察する。第一段階として、九州沿岸と台湾周辺海域(東シナ海南部から最北部)におけるカンパチの過去から現在にかけての分布域の変化傾向を見いだす。次に、過去から現在の分布域の変化、課題4で解析した分布域の将来予測結果を統合解析して、カンパチ漁業における漁期と漁場位置の変化予測、変化に対応した新たな漁業方策について検討する。
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Research Products
(11 results)