2017 Fiscal Year Annual Research Report
環境変動下における極域湖沼生態系の生物多様性とその遷移・応答機構の解明
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16H05885
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
田邊 優貴子 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (40550752)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 環境変動 / 水圏生態系 / 淡水湖沼 / 極域 / 一次生産 / 季節変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
・大陸性南極沿岸部の調査(南半球の秋季:4月-5月) 第58次日本南極地域観測隊に参加し、大陸性南極沿岸部にある昭和基地周辺において、以下の野外調査を実施した。アイスドリルを用いて湖氷に穴を開け、多項目水質計(proDSS、YSI社製)によって水質(水温、塩分、溶存酸素濃度、酸化還元電位、pH)の鉛直プロファイルを計測、柱状採水器を用いて湖水試料の採取、グラビティーコアラー(離合社製)を用いて湖底から柱状堆積物コア試料を採集した。 ・試料の分析(6月-7月) 昭和基地の実験室において、湖底堆積物試料を1 cm間隔で切断し、表層サンプルについてクロロフィル蛍光装置(Phyto-PAM、Walz社製)によって光合成測定を行った。同様のサンプルを凍結乾燥し、光合成色素を抽出したのち抽出液を高速液体クロマトグラフィー(島津製作所製)によって一部分析した。また、平成28年度に実施した調査で得られた現場測定データを解析した。 ・大陸性南極沿岸部の調査(晩冬-春季:7月-10月、夏季:11月-3月) 晩冬から春季にかけて大陸性南極沿岸部にある昭和基地周辺において、4月-5月と同様の機材および手法により野外調査を実施した。夏季には、同沿岸露岩域において、長さ70 cm-420 cmの湖底岩盤までの堆積物コアを採取した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で目的としているのは、極域の湖沼生態系における水中環境変動と物質循環・生物多様性という観点から生態系遷移プロセスを解明することである。極域の広範囲にわたる湖沼生態系を調べるために、「大陸性南極沿岸エリアにおける湖沼調査」を当初計画通りに実施できた上に、年間の環境変化に対する湖底生物群集の応答や湖沼の誕生年代を明らかにするための岩盤までの湖底堆積物コアを採取できたため、本研究は概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
・試料分析とデータ解析(平成30年4月-6月) 元素分析計(スミグラフNCH-22)で炭素・窒素・リン濃度の分析、HPLC(Shimadzu社製)で植物色素の分析、湖水・間隙水試料は栄養塩オートアナライザー(Bran +Luebbe社製)を用いて溶存無機栄養塩(リン酸・アンモニウム・硝酸・亜硝酸・ケイ酸)の分析、TOC分析計(Sievers 500、GEヘルスケアジャパン社製)を用いて全有機炭素・溶存有機炭素の分析、次世代シーケンサー(MiSeq)で一次生産者(シアノバクテリア・藻類・コケ類)の遺伝子解析を実施する。また、炭素・窒素の安定同位体比の分析を依頼する。 ・カナダ高緯度北極ワードハント島調査(平成30年7月) ワードハント島で、平成28年度-29年度と同様の機材・手法により野外調査を行う。 ・試料分析と総合解析(平成30年8月-平成31年3月) 得られた情報を統合することにより、エリア毎の一次生産者の環境応答と系内の生物多様性と物質循環プロセス、および、過去の環境変動パターンの違いから湖沼生態系の遷移プロセスとの関係を明らかにする。また、申請者らによって連続観測されている昭和基地周辺の湖沼・陸上環境データ、研究代表者およびSETI Institute・Andersen博士によって蓄積されている南極大陸内陸アンターセー湖の環境データ、スペイン水文学研究センター・Toro博士らによって蓄積されている海洋性南極湖沼の環境データ、研究代表者およびLaval大学・Vincent博士によって蓄積されている北極湖沼の環境データを用いて、水温・気温、クロロフィル量、光量の長期変動を調べる。ここ10-20年で極域の陸上環境および湖沼環境がどう変動したかを示し、それによって極域湖沼生態系がどのような影響を受けたかを評価する。
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Research Products
(15 results)