2016 Fiscal Year Annual Research Report
サンフランシスコ号海事考古学調査とガレオン交易船の造船技術に関する国際研究
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16H05945
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
木村 淳 東海大学, 海洋学部, 講師 (80758003)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水中考古学探査 / 御宿町沖海底地形図 / マルチビーム音響測深 / 水中金属探知機 / サンフランシスコ号 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度「サンフランシスコ号海事考古学調査とガレオン交易船の造船技術に関する国際研究」においては、千葉県夷隅郡御宿町沖合いで海事考古学調査を実施した。調査は、1609年のサンフランシスコ号沈没時に生存者が上陸したとされる田尻海岸とその沖合でのマルチビーム音響測深機(米国R2Sonic社製Sonic2024型)による海底地形測量と水中金属探知機(Minelab社製Excalibur) を使用した潜水探査が主な内容となった。2016年7月と2017年1月の調査により、約3.5x2.1kmの範囲の海底地形を計測し、50㎝メッシュでの立体地形図を作成した。当該海域の立体地形図で、田尻海岸沖合い直ぐは平均水深が3-5m程の浅海であるが、起伏にとんだ岩礁地帯が広がることが確認された。また、その浅海沖合いは、急激な地形変化で岩礁が複雑に入り組む谷地形となっていることが判明した。 本研究実施にあたっては、フィリピン国立博物館と覚書を交わし、2016年8月の潜水調査時に、同博物館水中考古学局研究員の協力を得た。文献資料上に確認されるサンフランシスコ号沈没時の状況に基づき、海域の暗礁付近を中心に潜水調査を実施した。岩質の海底には高さ1m程のカジメが繁茂し、岩礁の隙間の谷地形の底には砂が堆積する環境であることが確認された。サンフランシスコ号関連の遺物が岩質海底に残る可能性と砂質の海底谷底に残る可能性を検討し、2016年度については後者を調査対象として選定した。水中金属探知機による探査では、砂質の海底面下20cmに埋没している鉄製金属物を検出した。1951年7月21日に岩礁地帯で座礁・沈没したベルギー船籍のルーベンス(Rubens)号船体の一部と推測できる。海底谷の砂の堆積速度は速く、仮に砂質海底面下にサンフランシスコ号関連遺物が埋没した場合には、その遺存の可能性が指摘できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の千葉県夷隅郡御宿町沖合でのマルチビーム測深機と水中金属探知機による水中考古学探査実施の結果、当該海域でのサンフランシスコ号船体・関連遺物が海底に遺存するかという研究課題について、一定のデータと知見を得た。マルチビーム音響機による計測では、調査時の荒天という悪条件にも関わらず、高精度の3次元立体海底地形図を作成するに十分な音響データを得ることができた。音響データから作成した地形図は、既存の海図や海底地形データでは再現されていなかった複雑な海底地形の可視化に成功した。水中金属探知機を使用した潜水調査では、海底面上では視認できない埋没した金属遺物の位置特定を行う成果をあげた。サンフランシスコ号船体関連金属物が、岩質と砂質から成る複雑な海底地形にどの様な状態で残存する可能性があるのか判断を下すための水中考古学探査法の有効性確認と基礎データの収集において成果を収めた。 調査海域は、千葉県外房付近の外洋に面しており、潮流や遠距離であっても台風の波浪・うねりの影響を受け易く、海洋調査の環境としては制約があることが初年度調査判明した。これら要因もあって初年度調査に関しては海況が好条件ではなかったが、ほぼ予定していた範囲での海底地形計測と水中金属探知機調査を実施することができた。 2016年に京都で開催された世界考古学会議(WAC8)の場では、フィリピン国立博物館の研究者が主導するソルソゴンのパイラーやドルソンに所在するマニラ・アカプルコ交易関連の工廠跡に関する遺跡調査について意見を交わすことができた。同遺跡と検出された出土遺物は断片的な情報であるが、フィリピンで建造または修繕されたマニラ・ガレオンの船体及び造船業の実態把握を今後進めていくうえで基礎資料となる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、初年度の田尻海岸沖水深50m未満の浅海域の海底地形・環境の計測と分析を継続する。マルチビーム測深機により、初年度海域から西側と南西側の範囲の海底地形計測を行う。初年度の水中金属探知機による潜水調査では、1950年代に沈没した船の一部が、海底面下20cm程に埋没している状況が確認されたが、今後、海底地質の専門家らと協議して、海底谷の砂堆積状況についての理解を深めるする必要がある。 文献記述に合致する岩礁付近のサンフランシスコ号座礁・沈没地点の特定については、初年度と次年度の海底地形図を精査し、さらに水中金属探知機調査の結果をもって今後慎重に判断する。海底地形の計測を終えた海域については、海洋セシウム磁力計を使用しての磁気探査を計画し、大砲や砲弾類と錨等の船体関連の鉄製金属物の異常反応の検出を視野に入れる。当該海域での鉄製遺物は、ルーベンス号由来あるいは他の鉄製物も混在している可能性があるため、漁協組合や関係機関の協力も得ながら磁気探査を進める。 初年度に予定していたサンフランシスコ号の詳細な建造記録、座礁・沈没状況文献記録、船体の一部引き揚げとアカプルコ帰港記録については十分な実施ができなかったため、2ヶ年目に注力して調査を行う。特にマニラ及びメキシコ関連の史料の確認を優先事項とする。マニラ国立公文書館のガレーオネスに分類される史料があり、この内容の確認を課題とする。メキシコ国立考古学研究所の水中考古学部門の研究者ほか、ガレオン沈没船関連の研究を行う研究者と2017年7月にアモイで予定されている国際会議で意見を交わす予定としている。
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