2017 Fiscal Year Annual Research Report
恐怖条件づけの獲得・消去・再発の個人差に関わる認知機能と神経基盤
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16H05957
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Research Institution | Senshu University |
Principal Investigator |
国里 愛彦 専修大学, 人間科学部, 准教授 (30613856)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 臨床心理学 / 恐怖条件づけ / 不安症 / 脳波 / ニューラルネットワークモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,恐怖条件づけの獲得,消去,そして再発の個人差に関わる認知機能と神経基盤を明らかにすることである。恐怖条件づけ研究によって,不安症の発症/維持メカニズムについて研究が進み,それに基づく心理的介入が展開されてきているが,人を対象とした恐怖の再発に関する研究はまだ多くなく,さらに学習過程の個人差に関する研究は少ない。本研究では,恐怖による驚愕反射増強パラダイムにおいて,恐怖条件づけの獲得・消去・再発の過程を命題アプローチとベイジアン認知モデリングを用いて検討する。さらに,学習過程の個人差にかかわるものとして認知機能と神経基盤の検討を行う。最終的には,恐怖条件づけに関するニューラルネットワークモデルを更新し,これまでの研究の統合と新たな視点を提供することを目的とする。 平成29年度は,昨年度に引き続き,恐怖条件づけにおける命題の生成・評価過程と認知機能との関連を検討する研究1を実施した。昨年度実施した,恐怖顔と叫び声を刺激として用いた実験では,十分な驚愕反射増強を確認することができなかった。そこで,専修人間科学論集に「情動喚起刺激を用いた恐怖条件づけパラダイムの動向」としてまとめたように,本パラダイムについて精査を加えた上で,再度実験を行った。その結果,本年度も,恐怖顔と叫び声の刺激に対して十分な驚愕反射増強を確認することができなかった。その一方で,恐怖の予期に関する指標は,実験操作通りの結果が得られた。恐怖の予期とメタ認知との関連を検討したところ,メタ認知と恐怖の消去に関して関連が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度に,恐怖条件づけにおける命題の生成・評価過程と認知機能との関連を検討する研究1は終了した。実験に関して様々な工夫を行ったが,条件刺激に対する驚愕反射増強を示すことはできなかった。一方で,恐怖の予期については,恐怖の獲得と消去に応じたデータを取得することができ,消去時の予期とメタ認知との関連も明らかになった。この結果を元に,恐怖の獲得,消去,復元に関わる認知機能や神経基盤を検討する研究2では,電気刺激を無条件刺激に用いた恐怖条件づけパラダイムに切り替える。 研究3においては,恐怖の獲得,消去,復元に関わる神経基盤について,脳波を測定して検証する。それに向けて,平成28年度には脳波計のセットアップを行って,脳波実験を行うための実験プロトコルを作成した。続いて,平成29年度においては,脳波が適切に測定できるか,先行研究の蓄積が多く特徴的な事象関連電位が明らかになっている視覚的オドボール課題を実施した。その結果,先行研究と同じ事象関連電位を確認することができた。新たな装置や実験プロトコルのセットアップに時間は要したが,測定方法と解析方法に問題がないことを確認することができた。このように,研究2と研究3について実施準備が整った状況になる。 研究4は,これらの研究知見を元にニューラルネットワークモデルを提案するという理論研究になる。その際に,計算論的アプローチを用いるが,これに関しては,認知療法研究の「計算論的臨床心理学からみた認知行動療法」や心理学評論の「臨床心理学と認知モデリング」などの論文をまとめる中で検討するフレームワークが整理できてきている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度・29年度に実施した複数の実験では,叫び声と恐怖顔を無条件刺激に用いた恐怖条件づけパラダイムによって,恐怖の予期は予想通り示されるものの,ロバストな生理的な条件反応を検出することができなかった。そのため,平成30年度からは,電気刺激を無条件刺激に用いた恐怖条件づけパラダイムに切り替えて,恐怖の獲得,消去,復元効果に認知機能や神経活動がどのように関わるのか検討する。なお,恐怖条件づけの再発に関してはいくつかあるが,臨床上の有用性から,本研究課題では,復元効果に焦点をあてる。 実験は大学生を対象とし,具体的な手続きとしては以下になる。まず,最初に条件刺激が呈示され,その呈示中に命題の評価が求められ,最後に無条件刺激(電気刺激)が呈示される。無条件刺激は,ある条件刺激時には一定の確率で呈示され,ある条件刺激の場合に呈示されない。条件刺激呈示中の命題の評価では,条件刺激後に無条件刺激がどのくらい来るかを評定する。 条件刺激に対する条件反応は,主観的な予期と皮膚電位と恐怖による驚愕反射増強パラダイムを用いる。条件反応を獲得した後は,条件刺激のみの呈示を行って,消去を行う。そして,消去後に消去時の文脈とは異なる文脈において条件刺激への反応が戻ってくる復元効果を検討する。条件反応と命題の生成・評価の個人差について,認知機能の観点から検討を行う。なお,上記の実験において,昨年度から準備を行っている脳波の測定も行う。
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Research Products
(12 results)