2016 Fiscal Year Annual Research Report
酸化膜で囲まれたシリセン -酸化反応自己停止と酸化誘起歪みを用いた作製法の開発
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16H05969
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小川 修一 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (00579203)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | リアルタイム光電子分光 / シリセン / 酸化反応自己停止 / シリコン熱酸化 / 酸化誘起歪み / 歪み誘起反応制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
Si熱酸化プロセスにおける酸化反応自己停止を用いることで、酸化膜で囲まれたシリセン(シリセンインオキサイド:SIO)を作製することを目的として研究を進めてきた。本年度は以下の知見を明らかにした。
1) SiO2/Si界面酸化反応の律速反応およびその活性化エネルギーを求めるため、温度上昇による界面酸化促進過程を時間分解オージェ電子分光法で調べた。温度増加による界面酸化の活性化エネルギーは約0.27 eVで、表面酸化温度に依存しなかった。その一方で頻度因子は表面酸化温度が増加するにつれて減少し、温度が高いほど酸化速度が遅くなるという一見矛盾した現象が観察された。この結果は界面酸化で生じる酸化誘起歪みによって発生した点欠陥が反応サイトになるというモデルで説明できることを示した。実際に放射光を用いた歪みの測定では表面酸化温度が低下するほど歪みの発生が大きくなることが示された。すなわち、酸化反応自己停止には酸化誘起歪みを制御することの重要性が明らかとなった。
2) SIOでCMOSを構成する際にはp型およびn型両方のウェハを用いる必要がある。酸化反応は電子の授受のため、キャリアが電子であるn型とホールであるp型ではその酸化反応速度に違いがでることが予想される。不純物濃度を大きくし高温まで外因性領域となるウェハを用いてp型n型Si表面酸化の温度依存を調べた。その結果、p型とn型基板で吸着したO原子の挙動に違いが見られた。具体的にはn型基板では吸着O原子の顕著な内部拡散が観測された。その結果、n型の方が酸化誘起歪みの発生が大きいと考えられ、顕著な点欠陥発生が予測される。これによりp型とn型基板で酸化速度に差がでると考えられ、両者の基板で酸化反応自己停止する条件も異なると予測できる。SIOを用いたCMOS作製のためには新たに克服すべき課題と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度ではSi基板における酸化反応自己停止条件の探索を目的として、界面酸化の活性化エネルギーを求めることができた。得られた結果に基づき、酸化誘起歪みによる点欠陥発生が律速であることを明らかにできた。またそれに加えて、当初予定になかったp型n型Si基板での反応速度の違いも明らかにすることができた。それに加え、シリセン生成確認用のラマン分光装置も順調に立ちがあり、測定が行える状況になっている。そのため、研究計画にしたがって順調に研究が進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は28年度に得られた酸化反応自己停止に関する知見をもとに、任意の酸化膜厚で酸化反応を自己停止させる条件について探索する。具体的な目標は以下の通りである。
(1)Si酸化反応自己停止条件の定量的指標の構築:平成28年度で緒に就いた酸化反応自己停止条件の探索をさらに進め、プロセスの違いによる酸化誘起歪み発生量を比較する。平成29年度では酸素圧力変化による酸化誘起歪み変化に着目し、酸化反応速度と歪みの大きさを高輝度放射光によるリアルタイム光電子分光により解明する。さらに、酸化膜よりも大きな歪みが生じるとされる酸窒化膜をSi基板上に形成した後の酸化反応についても検討を行う。また、歪みを評価する手法として、これまでの高輝度放射光による光電子分光だけでなく、反射高速電子回折による面間隔測定からも歪みが測定できないか検討を進める。
(2)伝導性によるSi酸化メカニズムの解明:シリセンCMOSの作製にはp型およびn型基板の酸化が不可欠である。平成28年度では両者の酸化速度に違いが現れることがわかったが、平成29年度では放射光を用いた光電子分光により酸化状態や酸化誘起歪みの大きさを直接測定し、両者の酸化様式の違いを解明する。また、外因性領域におけるキャリアが酸化反応に違いを与えていることを証明するため、真性領域における酸化反応の比較も行う。ただし、高温では酸化反応メカニズム自体が変わってしまうため、低温でも真性領域となるロードープSiウェハを用いて実験を行う。
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