2016 Fiscal Year Annual Research Report
高エネルギー物質を用いたイオン液体推進剤の調製とエネルギー発生特性解析
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16H06134
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
松永 浩貴 福岡大学, 工学部, 助教 (70759240)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | ロケット推進薬 / 高エネルギー物質 / イオン液体 / 熱分解 / 燃焼 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はロケット推進薬の次世代化に向けた基盤研究である。ロケット上段の姿勢制御用エンジン(スラスタ)の液体推進剤はヒドラジンが汎用であるが,毒性が問題視されている。そこで,高エネルギー物質を主剤としたイオン液体に着目した。イオン液体推進剤(Energetic Ionic Liquid Propellants; EILPs)が実現すれば,溶媒を含まず低揮発性であるというイオン液体の特性から,高性能低毒性推進剤となることが期待できる。一方,EILPsはこれまでの推進剤とは全く異なる物性をもつことから,イオン液体の組成構築をはじめ,様々な要素技術の一新が必要とされる。本研究では高エネルギー酸化剤アンモニウムジニトラミド(ADN)を基剤としたEILPsを調製してエネルギー発生特性の解析を行い,ADN系EILPsの実用化および新規高エネルギー物質の開発やEILPsのデザインに関する知見を得ることを目的としている。 初年度はADN系EILPsの組成構築および熱分解,燃焼特性について知見を得ることを目的とした。本研究では,ADNに固体の可燃剤を添加し共融させることでイオン液体を得る。本年度はADNとの共融が報告されているアミン硝酸塩やアミド化合物をはじめとした物質を添加してその際の挙動を観測,整理することで,ADNとの共融に必要な添加剤の特性を検討し,低融点なイオン液体を得るための指針を得た。液体が得られた組成については,化学平衡計算により推進薬としての性能を予測して高性能な組成を絞り込んだ。これらで見出されたADN系イオン液体について,燃焼性能や貯蔵安定性の把握に必要なエネルギー発生(熱分解および燃焼反応)特性について実験的に検討した。熱分析に分光分析,質量分析を組み合わせた複合システムや燃焼試験機による観測,数値シミュレーションにより,反応メカニズムおよび速度を解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の計画は,高エネルギー酸化剤であるADNを基剤としたイオン液体の組成検討および熱分解,燃焼反応の解析であった。これまでに,ADNと混合すると融点を大きく低下させる物質が見出され,ADN系イオン液体を調製するために必要な添加剤の特性が把握されたとともに,試製を行うことができた。また,試製されたイオン液体について熱分解,燃焼反応を観測し,さらにシミュレーションを行うことで,速度,反応機構,エネルギー発生挙動について解析することができた。以上の結果から,推進剤に適した融点を持ち,現行推進剤を上回る性能を有するADN系イオン液体の候補を絞り込むことができた。 さらなる高性能組成の探索や実際に使用する環境におけるエネルギー発生挙動の把握などの検討の余地はあるが,初年度に計画していた検討をほぼ予定通り進めることができ,次年度の計画であるEILPsの点火方式を中心とした要素技術に関する検討を開始するための知見が得られた。したがって本研究は計画通りに進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は初年度における組成やエネルギー発生挙動に関する検討の継続とともに,ADN系イオン液体の点火に関する検討を行う。イオン液体は溶媒を含まず高エネルギーであることから,特殊な物性(低い揮発性,高い燃焼温度など)を有するため,既存の点火システムを用いることが困難である。そこで,本研究ではレーザーなどを用いた非接触点火を目指すこととし,点火の実現可能性評価および着火性向上に向けた組成検討を行う。 まずは非接触点火が実現可能であるかを評価する。イオン液体の液滴にエネルギーを入射し,着火の有無を観測する。点火の可能性が見出されれば,入射エネルギーなどをパラメータに着火までの時間(着火遅れ時間)を定量化する。最終的にスラスタに適したレベルの着火遅れ時間となる条件を見出す。 上記検討の中で必要に応じて組成検討を行う。着火性向上のために,イオン液体に添加剤を加えることで分解・燃焼促進剤の添加による反応性の向上,着色による入射エネルギーの吸収効率向上を狙う。これらの添加剤はスラスタでの使用時に配管に詰まりが生じないよう,液体内に溶解または均一に分散させるようにする。添加剤を加えた組成のうち着火性向上が見られたものについて熱分解,燃焼特性の解析を行い,反応メカニズムや速度を把握するとともに,推進剤に適した性質を有するかを評価する。初年度の成果と合わせて,最終的に低融点,高性能,高着火性EILPsの組成を得るための指針を構築する。
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