2016 Fiscal Year Annual Research Report
歴史資料から復元するツルの渡り―江戸時代の日本に渡来したツルの事例―
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16H06583
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
久井 貴世 北海道大学, 文学研究科, 専門研究員 (00779275)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | ツル / 渡り / 江戸時代 / 鷹狩 / 歴史鳥類学 / 人と動物の関係史 / 大型鳥類 / 初鶴 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、歴史資料を用いた調査から、江戸時代の日本におけるツルの生息実態について、特に分布、渡来数、渡来時期に注目し、ツルの生息実態の解明と過去の渡りの様相を復元することを目的とする。 本年度は、主に江戸時代の幕府や諸藩の記録からツルに関する情報を抽出することを目的として、国立国会図書館、国立公文書館、宮内庁書陵部、金沢市立玉川図書館近世史料館、名古屋市蓬左文庫などで文献調査を実施した。主な調査内容と成果は以下の通りである。 (1)ツルの捕獲に関する資料:幕府、加賀藩、尾張藩が実施した鷹狩の記録のうち、ツルの捕獲に関する記録を収集した。幕府と加賀藩では、ツルを捕獲している時期が異なり、江戸と加賀藩領ではツルの渡来時期が異なることが推察できた。尾張藩では、ツルの捕獲を実施した鷹場の場所が明らかになった。 (2)「初鶴」の献上に関する資料:大名武鑑から、その年に初めて捕獲された初物のツルである「初鶴」を献上品としていた藩と、その献上時期について確認した。また、「初鶴」献上にかかる書状から、津藩や鳥取藩などから幕府へ献上された「初鶴」の具体的な事例を確認した。「初鶴」の献上の時期は、その地域におけるツルの初渡来時期と連関すると考えられる。 (3)公用記録中の天気の記録:盛岡藩の『雑書(家老席日記)』には、ほぼ全ての期間を通じて天気の記載があることを確認し、データの入力を進めた。また、弘前藩の日記については、これをまとめた先行研究にあたることができた。盛岡藩と弘前藩以外にも、一定期間を通じて天気の記載がある史料を確認したため、必要に応じて利用していくことを考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ツルの渡りにとって重要な地域であると推測した地域を対象とした調査を行い、江戸時代のツルの渡りの復元を目標とする本研究にとって有用な史料を収集することができた。また、鷹狩の記録以外に「初鶴」献上の記録を収集することができ、捕獲と利用の両面から江戸時代のツルの生息に関する情報を得ることができたのは大きな成果である。よって、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の調査によって、諸藩の鷹狩の記録にはツルの捕獲に関する記録が含まれる可能性があることを確認した。これに類する史料が他藩にも存在する可能性を考慮し、今後は本年度に対象としなかった仙台藩などについても調査を行うこととする。ただし、本年度に収集した史料では特に「黒鶴」(ナベヅル)の記録が多く、種に偏りがあったため、今後はナベヅル以外の他種についての記録も収集できるように努める。また、当初の予定通り、今後は幕府・諸藩の公用記録以外に江戸時代の博物誌資料や、現代の日本におけるツルの渡来情報を調査の対象とする。現代の渡来情報についてはこれまでにも随時情報収集を行っており、今後も情報の集約を順調に進められる予定である。本研究課題の成果は、鳥類学や野生動物学、歴史学などの分野での学会発表、および学術論文としての投稿を積極的に行う予定である。
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Research Products
(1 results)