2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16H06874
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小田 なら 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, その他 (70782655)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | ベトナム / 医療 / 出産 / 医療史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本・ベトナム両国での文献調査とベトナム国内でのフィールドワークにより、出産というドメスティックな領域が国家や社会によっていかなる介入を受けてきたかを明らかにし、現代の医療実践との相互作用を解明するものである。具体的には、1.近現代ベトナム社会で出産にかかわる公的制度がつくられる過程2.伝統医療が出産において実践される様相の変遷、さらには3.制度構築が実践にどのような影響を与えたのかを実証する。 平成28年度は、半年間という限られた時間のなか、文献資料の収集・調査を中心におこなった。アジア経済研究所所蔵の南北分断期のベトナム(1954~75年)における南北ベトナム両国の新聞と、ベトナム・ハノイの古書店で収集した妊産婦・母親向けの手引書、および短期間の現地調査から、以下の知見が得られた。 1.当該時期に母子保健の分野において多くみられた感染症・疾病を特定し、公的医療制度のもとで助産師が資格化される過程(教育機関や教育内容)の概要を明らかにした。2.妊産婦・母親向けの手引書は、時代が下ると内容が多様化する。しかし、南北分断期から、西洋医学の観点より解説したものが中心となっており、かつ、フランス語・英語文献の翻訳であることが多い。3.伝統的慣習と呼べる養生法は、文献では伝承されていない。母親あるいは父方・母方双方の、出産経験のある女性親族が妊産婦に助言をおこなうことで継承されている。しかし、産児制限(二人っ子政策)によって妊娠・出産の機会が以前より少なく、また、都市化が急激に進むなかで、都市部に住む若い女性らは、かつてのように厳格にその習慣を知り、実践しているとは言い難い。 これらの内容は、平成29年度に提出予定の博士論文の一部としており、今後公表の予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、文献資料調査に関しては、研究計画の通り進めることができた。しかし、現地調査では当初予定していた通りの聞き取り調査をおこなうことができなかった上、論文として研究成果を公表できていないため、進捗はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は平成28年度に得られた研究内容を補強する現地調査に力を入れ、論文や研究発表による成果報告をおこなう。現地調査では、この一年間で妊娠・出産を経験した女性、出産から5年以内の女性を中心に、彼女たちの出産前後の養生方法を聞き取るほか、ハノイの伝統医学専門の診療所と助産院にて、出産前後のどの段階で伝統医療が用いられるのかを参与観察する予定である。これら現地調査で得られた実践の様相を、ベトナムの社会史の流れに位置づけて考察を加え、『東南アジア研究』あるいは『南方文化』に論文として投稿する。なお、11月には東南アジア学会関東例会での発表が決定しているほか、科学史・生物学史の研究会でも発表をおこない、さらに広い視野からの考察を深める予定である。
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