2016 Fiscal Year Annual Research Report
ドゥルーズの自然哲学を中心とした現代哲学における非人間主義の意義と射程の解明
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16H06918
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
小林 卓也 大阪大学, 人間科学研究科, 助教 (50611927)
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Project Period (FY) |
2016-08-26 – 2018-03-31
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Keywords | ドゥルーズ / 自然哲学 / 超越論哲学 / 地質学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はフランスの哲学者ジル・ドゥルーズの哲学を独自の自然哲学として提示することを目的としている。この目的を達成するべく、本年度はまず、ドゥルーズ哲学を三つの時期に分類し、その思想的変遷を分析することで、そこからドゥルーズの自然哲学の中心的特徴を取り出すことを試みた。すなわち、ドゥルーズ哲学において自然という主題は、1.『差異と反復』(1968)に代表されるカントの人間主義批判、2.精神分析家フェリックス・ガタリとの共著『千のプラトー』(1980)における自然科学の援用、3.晩年の著作である『哲学とは何か』(1991)における自然という主題の哲学への導入、という三つの時代区分を経て徐々に前景化される。とりわけ、本研究では、『千のプラトー』で援用される地質学の議論を分析し、①「地層」概念があらゆる経験を成立させる超越論的原理として提示されていること、②そこでの人間主体は、独立した認識主体ではなく、地層の運動の一部に組み込まれていること、③地質学の議論は、いかなる人間的特権性も含まない自然内部に諸概念の自律的運動性を見出す「非人間主義」(inhumanisme)であることを明らかにした。これにより、『千のプラトー』の地質学の援用は、超越論的原理(カテゴリー)の探求という『差異と反復』以来の哲学的企図に応えるものであるとともに、そこにおける地層化の議論に見出される自然内部における構成の問題は、『哲学とは何か』において哲学という固有の領域を確保し、哲学史を解体するとともに、哲学的思考に固有の時間性をもたらす「内在平面」の概念化を促すようドゥルーズ哲学を導いたと考えられる。 これらの議論から、本研究は、カントの超越論哲学における人間主義批判、非人間主義的な超越論的原理の探求、自然内部における構成の問題がドゥルーズの自然哲学を構成する中心的特徴として理解されるべきであることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
文献収集、分析等はおおむね順調に進展しているが、論文・発表などへの業績に未だ結びついていないため。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究が明らかにしたように、ドゥルーズの自然哲学は、カントの人間主義を批判し、非人間主義的な超越論的原理の探求を企図したものである。そして、哲学史的観点からすると、こうしたドゥルーズの自然哲学が、フィヒテやシェリングを代表とするカント哲学における直観の形式(時間・空間)とカテゴリーを批判するポスト・カント派の議論を踏襲していることは明らかである。今後、ドゥルーズが直接・間接に言及する戦後フランスのポスト・カント派研究に加え、近年のドイツ観念論とドゥルーズ哲学の比較研究を参照し、ドイツ観念論における自然哲学とドゥルーズ自然哲学の異同を特定することを予定している。
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