2016 Fiscal Year Annual Research Report
エジプトのマウリド:「日常」と接続した「祝祭」における非儀礼的要素の研究
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16J00120
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
近藤 文哉 上智大学, グローバル・スタディーズ研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 祝祭 / 砂糖菓子人形 / 受容的態度 / 聖者崇敬 / 民衆芸術 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、まず、①エジプトのマウリド(祝祭)におけるアルーサ(砂糖菓子人形)が、エジプト社会で様々に表象されている事実を確認した。従来の研究では、アルーサは多くの場合、マウリドという祝祭を軸として存在しているかのように論じられてきた。しかしながら、むしろアルーサは、民衆芸術、民俗(フォークロア)という文脈上において盛んに表象されており、マウリドという特別な時間・空間と「日常生活」のそれらが「接続」された上に存在している事実が確認された。 次に、②マウリド参加者の経験についての新たな仮説が提出可能であることが確認された。祝祭としてのマウリドは、すべての人に開かれており、そして、参加者を「日常」の様々なしがらみから解放し、平等性や連帯性を生み出す現象(コミュニタス的現象)であると、研究者や現地の参加者自身によって主張されてきた。だが、開かれているという理想を実現するための実践は、様々な思惑(窃盗など)を持つ参加者をも招き入れてしまい、むしろコミュニタス的な状況の実現を妨げるという仮説の提出が可能であることがわかった。 最後に、いかに読者(日本人)に対して研究を発信するかは、すべての研究者にとって重要な事柄である。その観点から、③ムスリムに対する認識・態度に関する日本の状況の把握のため、アンケートをもとに統計を用いた共同研究を実施した。具体的には、ムスリムに対する日本人の受容的態度(どの程度受け入れることができるかについての態度)について、アンケート調査をもとにした統計的研究を行った。その結果、ムスリムに対する本質主義的認識(ムスリムに対する一枚岩、没歴史的認識)が、否定的イメージに正の有意な関連を持つ(すなわち、本質主義的認識を行うほど否定的イメージを持ちやすい)ことなどがわかり、本質主義的認識の克服が研究者にとって非常に重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の計画において予定していた結果とは異なるが、より幅広い観点からマウリド、そしてアルーサを概観することができた。特に、研究実績の概要における①に関して、より広範な文献・作品資料が初年度において渉猟できたことによって、本研究の意義が祝祭にとどまらないことを明確にできたことは重要である。一方で、文献・作品資料の増加によって、基礎資料としたい現地調査が当初の予定より減少したことは反省される。 上述の理由に加えて様々な理由から、当初の計画より現地調査の期間が短くなり、十分に満足した結果になったとは言い難い。ただし、②に関して述べたように、現地調査に基づき従来の研究とは異なる仮説の提出が可能となったことことで、本研究のひとつの指針が成立したことは望ましいと考えられる。 ③の側面については、研究ノートとしてであるが、共同研究の成果が査読を有する雑誌に受理されたことにより、予定していた進捗より非常に大きな結果を残すことができたといえる。ただし、こうした結果は、現地調査による研究が長期間を要す一方で、アンケート調査が短期間で可能であるという、調査方法の相違に一部由来するものであることは確認しておくべきであろう。そのため、この側面の研究については、今後も継続的に調査とその成果の発表を行うことが可能であり、また必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
推進方策について、研究実績の概要にもとづき総括する。まず①については、現地調査だけではなく、様々な種類の資料分析を行うことが不可欠だといえる。例えば、アルーサのエジプト社会での表象に関して、その現代的意味を問うために、近現代における変遷を新聞・雑誌資料中での記述の分析をさらに詳細に行う必要がある。また、先行研究についても、参考資料として扱うだけでなく、記述の背景に存在する文脈を理解するために詳しい考察を行うことが望ましく、今後実施する予定である。 ②に関しては、仮説の検証のためにこれまでより多くの現地調査を実施することが必須である。また、②で述べた仮説をアルーサとその「職人」に関する研究と接続させることも重要な課題である。それに対して、現時点では、②のような多種多様な目的・経験を持つ人々の中で、コミュニタス的空間と対立し、また最も「日常」と接続しつつ参加しているのがアルーサの職人(販売人)であるとする仮説を立てている。言い換えれば、職人にとって、マウリドへの参加という経験の中で、アルーサを製作する準備期間(多くの人々にとっての「日常」)が最も重要であり、マウリド期間中の販売という行為は、職人にとって「日常」的なもので、二次的でしかない、というものである。 ③に関しては、先述したように、今後も継続してアンケート調査・分析とその成果発表を行う予定である。 以上のように、①アルーサの研究、②祝祭としてのマウリドに関する理論的研究、③非ムスリムの研究、という3視点から、今後の研究を継続する予定である。
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Research Products
(2 results)